CONTINUATION OF A DREAM.  04

静寂の中に響く雨音が、耳鳴りのようにうるさい。
生憎の空模様で薄暗い昇降口で、私の周囲だけが異様な空気を放っていて。
その異常な威圧感と緊張感に、心臓が押し潰されそうだ。


「随分遅くまで学校残ってやがるな。帰宅部なら、家帰ってからでも読書なんて腐るほど出来るだろ?」
「……ッ」


下駄箱と、私の背後に立つ―――悪魔。
2つに阻まれて身動きが取れなくなってしまった私の頭上から、嫌味なのか何なのか判別しづらい言葉が降ってきて、思わず唇を噛んだ。

何だ。
何なんだ、この状況は。

本当に突然、完全に油断していた自分の身に降りかかった事態。
いつもならばこんな状況になっても呑気な頭が解決してくれるのだが、如何せん、今の私は精神的に沈み込んでしまっている。
そんな状態で、しかも“彼ら”のことでぐるぐると思考を巡らせていた今この時に起こった異常事態に、私の頭は冷静さを失って混乱していた。


「……おい、いい加減こっち向きやがれ」


いつまでも後ろを向いて硬直している私に痺れを切らしたのか、私の後ろに立っていた彼が、下駄箱についている手とは逆の手で私の肩を掴んできて。
グイッと力任せに、振り向かせられた。


「……」
「……」


細いながらも筋肉質な腕で力を込められれば、私みたいな非力な人間は逆らうことができない。
下駄箱に向き合っていた身体は強制的に彼へと向けられて、今度は目の前を彼に阻まれてしまう。

顔が、上げられない。


「……な、んで」
「あ?」
「何で、こんなところにいるんですか……部活は、どうしたんですか、蛭魔先輩」
「部室改装してて使えねーから別の場所でやった。外はあのザマだし、王城戦の翌日だから早めに切り上げたんだよ」


アメフトに雨はあまり関係ないのだが、思ったように練習ができないことが歯痒い様子の彼は、忌々しそうにそう言って舌を打つ。
部室の改装という言葉に若干の引っかかりを覚えたが、あまり気にしないことにした。

部活が終わっていることは分かった。
しかし、だからと言って何故彼がここに、私のところになどいるのか。

―――いや、そんなことはどうでもいいのだ。
この人のペースに呑まれる前に、この場を何とか切り抜けなければいけない。

混乱する頭で必死に考えてそう行き着いた私は、顰めそうになる顔を必死に取り繕ってからスッと上げた。
顔を上げた先には、思いの外近い悪魔の顔があって。
てっきりいつもの意地が悪い不敵な表情をしているものだと思っていた私は、彼の真剣なまでに無表情な顔を見て一瞬たじろぐ。


(……駄目だ)


しかし、それもほんの一瞬のことで。
私は彼が言うところの『ボケーッとした顔』を取り繕って、私よりも随分背の高い彼を見上げた。


「部室改装なんてまた滅茶苦茶なことしてますね。校長先生に費用出してもらったんですか? ……あっ、そういえば新しいマネージャーさんすごいらしいですね。才色兼備の風紀委員さんって聞きましたよ? 王城戦のことも聞きました。春大会は残念でしたね……でも、これからは秋大会に向けて準備に徹することが出来るし、頑張って下さいね。陰ながら応援―――」
「そうやって薄っぺらい笑顔作って早口でまくし立てるときは、テメーが何かしら誤魔化そうとしてる時だ」
「!」
「おまけに、そうしてる間に頭ん中で色々くだらねーこと巡らせて、逃げようともしやがる」


ヘラリと、差し障りのない笑顔を向けたつもりだった。
言葉だって、確かに余計な言葉を言われないように畳み掛けてはいるけれど、極力普通のスピードで話すよう気を配ったつもりだった。

なのに、全て見透かされている。

私の言葉を力強く遮った彼は、ピタリと口を噤んでしまった私の反応を見て、口元を歪めた。


「詰めが甘ェ。自分のことにはとことん不器用な奴が、意地張ってんじゃねーよ」
「ッ、別に意地なんて……!」


自分の内心を見透かされたことへの羞恥と怒りが込み上げてきて、思わず声を荒らげかける。
しかしここで怒鳴っては私に勝機はないと、沸騰しかけた頭を冷静に立て直し、私は再び口を噤んだ。

すると、私の行く手を阻む悪魔は、余裕が籠った声で話を続ける。

「こんな隙だらけな奴に、俺が撒けると本気で思ってやがんのか?」
「……どういう、意味ですか」
「ケケケ。1週間前部室に呼び出す前から、俺はこうなることを予想してた」
「!」
「俺達と並ぶアメフト馬鹿のくせして、試合はこっそり遠くから。その後俺達のところに来もせずにこっそり帰宅。やっとのことで顔合わせたかと思ったら、俺達と面と向かって喋ってるようで喋ってねェ。俺達の目を見てるようで見ちゃいねェ。そして理由も話さず勝手に出ていって1週間接触もなし」
「そ、それは……」
「テメーは中坊んときからそうだ。自分のことになると空回って、分かり易すぎなんだよ」


呆れたように溜め息まで零して言ってくる彼に、思わず眉間に皺が寄る。
そんな私の顔を近くから見下ろして愉快そうに笑うと、蛭魔先輩は制服のポケットから黒革の手帳を取り出して、これみよがしに私の顔の真ん前で広げた。

『脅迫手帳』などと記された、その個人情報が詰まった手帳を。


15歳。1020日生まれ。私立泥門高校12組在籍。現在はマンションで一人暮らし」
「……」
「小学5年の頃、父・希の仕事の都合で渡米。中学1年の夏休み中に単身日本へ戻り、市立麻黄第十三中学校に通学。しかし中学3年の4月、父親に呼び戻されて再び渡米。その後1年程アメリカで生活するが耐え切れず、父親に秘密で日本の高校を受験・合格したことをきっかけに再び単身帰国。母・姫乃が入院する城下町病院と新居であるマンションから通える距離にある私立泥門高校に、1週間遅れて入学」


どこでそんなことを……!

私は信じられないといった表情で、目の前で私の個人情報を読み上げる悪魔を見上げた。
アメリカにいた時期や理由くらいならば、私の幼馴染みから話を聞くなりして知ることはできるだろう。

しかし、何故。




―――何故、私が泥門高校を選んだ理由まで、知っているんだ。




手帳に走らせていた視線をチラリと私に向けてきた蛭魔先輩は、口元の笑みをより深くした。

駄目だ。
相手が悪すぎた。
私なんかが適う相手じゃ、ない。


「何だ? どうした? マヌケ面だぜ」
「ッ!」


動揺を隠すことができない私の顔を見て、試合で勝利を確信した時のような楽しげな表情で、悪魔は私の顔を覗き込んできた。
手帳を持っていた手が、私の背後にある下駄箱につかれて。




完全に、逃げ場を失った。




ただでさえ、気持ちが沈んで張り詰めていた我慢の糸が、切れる。
辛うじて涙が溢れるのは耐えられたけれど、そのせいでどうしようもなく顔が歪んで、情けない顔になってしまった。


「何で、何で私なんかのところに来るんですか……新しいマネージャーがいるんでしょう? 主務だって、小早川君がいる。アイシールド21っていう、優秀な選手だって……」


私がそこに加わる理由なんて、ないじゃないですか。

そうほんの少しの本音を零して、私は情けなさから顔を俯かせた。
それでも、やはり自分の口から本当の理由は言い出せなくて。

だって、私は。


「腕と眼のこと、気にしてやがんのか」
「!」


ビクリ。
頭の上から不意に降ってきた言葉に、私は今までにないほど肩を震わせた。

何となくもう予想はついていたことだったけれど、彼はそんなことまで調べ上げてしまったというのか。

返事はないものの私の態度や顔色から肯定と受け取ったのか、蛭魔先輩が重い溜息を零したのが分かった。
同時に、そこまで分かっているのなら私がアメフト部に入部しないと言った理由も理解して欲しいと思う。


「腕はガキの頃からだろ。お前も気にしちゃいねーんだろうから、問題は―――……眼、か」


そう、幼い頃に負って障害が残っている腕は、もういいのだ。
私がアメフト部に入ることを拒んだ、本当の理由は―――。


「ここ12年で随分と落ちたらしいな、視力」
「ッ……!」


唯一の武器であった“視力”を、失ってしまったことだ。


「授業中、糞チビに見張らせてた。何か気づいたことがあれば何でもいいから報告しろってな」
「み、見張らせてたって……」
「そしたら案の定、だ。授業中は眼鏡かけてるらしいじゃねーか。席は窓際の一番後ろ……前のお前なら、その程度のことで眼鏡なんてかけるわけがねぇ」
「……」
「何で黙ってやがった」


そう言って私の顔を覗き込んでくる彼の目は、ひどく鋭かった。
それでも彼の感情が読み取れるわけでもなくて、私はただただ怖くなる。


「……だ、って」


だって、知られたくなかった。
知られればきっと、貴方達の中での私の価値はなくなってしまう。


「だって、私の取り柄はそれしかなくて」


ただでさえ、マネージャーとしては人並み以下の仕事しか出来ないのに。


「私には、もうそれでしかアメフトに関われる理由が、なかったのに……」


私は昔から、普通の人よりも五感が鋭く出来ていた。
人よりもよく音を拾って、人よりも舌が肥えていて、人よりも匂いに敏感で、人よりも触れるものを敏感に感じ取って―――人よりも、視力が優れていた。


「折角、皆が見つけてくれた……私の希望だったのに」


それをはっきりと自覚したきっかけは、麻黄第十三中学校でアメフト部に入部して、この目の前の悪魔に指摘されてからのことだった。

確かに昔から、健康診断をすると通常の数値よりも高いものが出ることは、自分自身気づいてはいた。
しかし、別段気にするほどのことでもないと思っていて。
そんな、私自身でもはっきりとは自覚していなかったことを、金髪の悪魔は私が入部して間もない頃に指摘してきた。

聴覚・味覚・嗅覚・触覚、そして視覚。
五感全ての限界数値を検査して、その結果を目の当たりにした悪魔は、私をデビルバッツの主務に任命した。
五感の中でも特に優れていてアメフトの役に立ったのは聴覚と視覚で、私はそれを武器に彼らを支えてきたのだ。

―――それなのに。


「視力が……多少落ちるだけなら良かった。まだ頑張れた。……でも」


今の私の“眼”に、彼らが望むものを与えることはできない。


「で、も……っ」
「見えねェんだろ。左目が」
「ッ!!」


搾り出すように言葉を零す私を沈黙して見つめていた蛭魔先輩が、口を開く。
もう驚きすぎて心臓も跳ねない私は、ただただ顔を顰めた。

やはり、知られていた。
知られてしまって、いた。

こうなった原因は、確かに麻黄中に通っていた時だったけれど。
その時はまだ、こんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。




『―――気に入らねェ』




ふと頭を過ぎった記憶を、無理矢理頭の奥へと押し込めた。

現状を把握したことでこみ上げてきたのは、どうしようもない絶望感だった。
私が入部を断った理由をここまで知っているというのなら、この人はそれを確認するためだけに私の元へ来たのだろう。
私の口から直接、真相を確かめたかったのだろう。


「……そうですよ」


―――これで本当に、私が入部する理由はなくなった。


「左目はもう、ほとんど見えてません。そのせいでどうしても右目を酷使してしまって、右目の視力も落ちました。今は1.0もないと思います。眼鏡を使って補助しても、中学の頃の視力には程遠い」


これでよかったんだ。
そうだ……私は元々、入部は諦めていたじゃないか。
これでいいんだ。
これで、後腐れなく彼らと別れられる。

それなのに、どうして。


「見えないのに傍にいたって、私は何の役にも立てない……!」




どうしてこんなに、苦しいの。




訳が分からない。
もう頭と心がグチャグチャで、矛盾ばかりが渦巻いて。
自分の気持ちも、これからどうしたらいいのかも、分からない。

彼の目を見ているのも、その姿を映すのも辛くなって、私は自分の顔を両手で覆った。
どさくさに紛れて零れそうだった涙を拭おうと、その掌に力を込める。





刹那。
その両手を、さらに大きな手が掴んで、引き剥がす。
それと同時にかけられたのは、蛭魔先輩特有の口癖が付かない、私本来の名前で。





彼らしくもない優しすぎる声が、私の耳に届いた。
その声に釣られるようにして無意識に顔を上げると、金色に染められた髪が目を奪う。


「……蛭、魔……・先輩……?」


前髪から覗く切れ長の目が、真っ直ぐに私を見つめていた。
それに射抜かれたように暫し見つめ返していたら。


「痛あッ!!?」


頭に衝撃。
唐突に訪れた衝撃に声を上げて反射的に頭を両手で押さえる。

……あれ、いつの間に手が自由に……?

そこでようやく自分の両手が自由になっていたことに気付いて、訳の分からぬままオロオロとしていると、独特な笑い声が結構な大音量で辺りに響く。


「ケケケケケ! 目ェ醒めたか、糞泣き虫」
「い、痛い……な、何したんですか……」
「情けねェ顔してたんで、気合入れるためにチョップしてやった」


有難く思えとでも言いたげに不敵な笑みを浮かべて、悪魔が言った。
あまりに急すぎる彼の行動に混乱している私に、チョップしたという手を掲げながら蛭魔先輩が続ける。


「テメーは1人で勝手に余計なこと考えすぎなんだよ。誰がテメーの“視力”だけを評価してるっつった?」
「……え?」


未だにジンジンと鈍い痛みを発する頭頂部を掌で摩りながら、私はキョトンと目を丸くした。
そんな私の顔を見てイラッとしたのか、今度は額に強烈なデコピンをお見舞いされる。


「痛いッ!」
「いつまでもアホ面してっからだ、糞お惚け女」
「だ、だって、もう訳分かんなくて……


頭と額を手で押さえるという情けない格好になっている私を笑い飛ばして、蛭魔先輩は何でもないように言う。


「訳分かんなくていいから、明日から部活来やがれ。テメーにやらせる仕事は山程あるんだよ」
「……は?」


この人、私の今までの話ちゃんと聞いてた?

思わず口から飛び出しそうだった言葉を呑み込んだかわりに、疑問を込めた情けない声が漏れる。
思ってもみなかった言葉に唖然としていると、蛭魔先輩は突然その長い指を私の目に突きつけてきた。
反射的に目を閉じると、想像よりもだいぶ優しく、左目の瞼に指先が触れた。


「いいか、一度しか言わねーからな」
「……?」


触れられていない右目だけ開いて。
真っ直ぐに、前を見据える。




「てめぇの“眼”だけが必要なわけじゃねェ。“”自身が必要だっつってんだ。忘れたのか? 俺達は絶対全国大会決勝(クリスマスボウル)に行く―――連れてってほしけりゃ、黙ってついてきやがれ!」




先ほどと大して変わらない視界の中で、悪魔が何時になく勝気に笑った。


「……ッ、そんな、こと……」


そんなこと、言われたら。


「約束、したんだから……ついて行っちゃうに、決まってるじゃないですか」
「ケケケ、上等だ」


結局、私はこの金髪の悪魔に勝つことはできないのだ。

何だか今まで色々と葛藤していた自分が馬鹿らしくなって、私は溜め息を零した。
そして、何だかこころなしか満足気な蛭魔先輩の様子を見て、私も笑う。


「―――あっ、蛭魔いたー! あれ? ちゃんも!」
「! ……栗田先輩?」
「……チッ」


そんな時外から昇降口に入ってきたのは、大きな身体を揺らす栗田先輩だった。
蛭魔先輩を捜しまわっていたのか、少し息を弾ませながら近付いてくると、私の姿に気付いて笑顔を浮かべる栗田先輩。
そんな栗田先輩を横目にチラリと見て確認した蛭魔先輩は、何故かバツが悪そうに舌打ちをしていた。


「た、ちゃん! よかったー! この1週間毎日放課後にちゃんのクラスに行って話しようと思ってたんだけど、いっつもすれ違いになっちゃってて……」
「え?」
「とにかく、やっと見つけた! ちゃん、やっぱりまた僕達と一緒に―――」
「もうその話はとっくのとうに済んだんだよ! 鈍足にも程があんぞ、この糞糞デブ!」


ポヨポヨと近づいてきた栗田先輩は、私の目の前までやってくるととても嬉しそうに緩ませていた顔をキリッと引き締めて、何か話を切り出そうとする。
しかし、それを真横から蹴り飛ばし、蛭魔先輩が中断させてしまった。

訳が分からずに呆然とする私の目の前で横腹を蹴られて転がった栗田先輩も、キョトンと目を丸くする。


「テメーが見当違いなとこドスドスドスドス捜し回ってる間に俺が引き戻しちまった」
「え? ってことは……ちゃん、アメフト部に入ってくれるの? また一緒にアメフトやれるの?」
「は、はい」
「や、やったーーーーー!!」


どうやら、栗田先輩まで私をアメフト部へ入部させようと説得しにきてくれたらしい。
その説得が蛭魔先輩によって今し方成功したことを理解した栗田先輩は、私に確認するように尋ねてくる。
それにコクリと頷いて答えると、栗田先輩は歓喜の声を上げて大きな身体をその場でゴロゴロと転がした。

こんなに喜んでもらえるのはすごく嬉しいんだけど……制服汚れちゃうよ。

何だか的はずれなことを考えている辺り、私も内心浮かれているのかもしれない。
だって、また彼らと一緒に、夢の続きが見られるのだから。

夢を、現実にするために。


「きっとセナ君と姉崎さんも喜ぶよ! そうと決まれば、ちゃんには明日入部届書いてもらわないとね!」
「ああ、そうですね。用紙は入学してから先生に貰ったんですけど、どの部活にも入るつもりなかったので……貰ったきりです」


まるで自分のことのように喜んでくれている栗田先輩を、とりあえず立ち上がらせる。
すると彼特有の穏やかな笑顔でそう言われて、私は泥門高校へ来たばかりの時に担任の先生から渡された入部届を思い出す。

確か家に置いてあるファイルの中に……。


「いらねーよ」


ワクワクと落ち着きがない栗田先輩に笑顔を向けながら自分の記憶を探っていたら、不意に、蛭魔先輩がそう口を開いた。
それに私と栗田先輩が反応を返すよりも早く、悪魔はニヤリと笑って言う。


「俺が代わりに書いて、先週会った日の翌日に提出しておいた。受理もさせたぞ。問答無用で」
「「…………ええええええっ!?」」


そして、サラリと言ってのけた。


「どちらにせよ、テメーはもう入部するしかなかったってこった」


ケケケケケと愉快そうに笑う蛭魔先輩の用意周到さに、私と栗田先輩は顔を見合わせた。
そして、お互いに苦笑を浮かべる。

何だ、結局私は彼の掌の上で踊らされていたのか。




「この俺から逃げようなんざ100万年早ェんだよ、糞




そんな私に、泥門の悪魔は更に追い打ちをかけるように畳み掛けた。

普通ならば怒らなければならないようなことなのに、何故か私は怒る気にはなれなくて。
私が入部を断った理由をすべて理解した上でもここまでして入部させようとしてくれたことに、どうしようもない喜びがこみ上げてきて。


「おい、もう今日はさっさ帰んぞ」
「そうだね。もう大分暗くなってきたし……ちゃん、家まで送るよ!」


だらしなく、頬が緩んだ。


「何気の抜けた顔してやがる、糞
「う、わっ……!」


そんな私に目敏く気付いた悪魔の手が、乱暴に頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
突然のことに驚き、乱暴な手つきに少し痛みを感じながらも、緩む頬はそのまま。

ねぇ、厳ちゃん。
私、厳ちゃんとは全然違う立場にいるし、こんな簡単に決意を揺るがすような人間だけど。
だけどね、厳ちゃんが想っていることは皆と同じだって、よく知ってるよ。

だから。


「……っ、あの!」
「?」
「……何だ」


だから、先に素直になって、待ってるね。
厳ちゃんが戻ってくるまでには、私、自分の欠点を補えるくらい強くなってるから。
今の私にも出来ることがあるって、信じたいから。


「こんな私に何ができるか分からないけど、頑張るから……」


この人達と、厳ちゃんと。
―――みんなで、夢の続きを描いていくために。


「また、よろしくお願いします、“妖さん”、“栗さん”!」
ちゃん、その呼び方……!」
「ケケケケケケケ!」


中学の頃の呼び名に戻したのが、私の覚悟とけじめの証。








それは確かにあの日願った、夢の続き。

(いつか願いが1つになったとき)(絶対皆で笑い合おう)










アトガキ。

*悪魔の策略の成功。

*はい、というわけでヒロイン、デビルバッツ入り決定です。
 蛭魔さんに下駄箱で迫られるシチュエーションと、最後のヒロインが呼び方を昔のものに変えるところが書きたかったがための話です(笑)
 ちょっとヒロインあっさりすぎじゃね?とは思いますが、相手があの蛭魔じゃ1週間逃げ切れただけ素晴らしいと、私は思う。

 そんなわけで、ヒロイン入部編というか、再会編は終了です。
 次回からいよいよ、部活動参戦!


*章タイトル『CONTINUATION OF A DREAM.』→→意:夢の続き。




*2012年12月8日UP。