衝撃的衝動。   01



昨日早朝、父の身勝手な独断によって、双子の兄・君の通う学校―――銀魂高校へ編入する羽目になってしまった私・ は、今、その問題の銀魂高校の前に立っている。


「……」


わざわざ制服を着てまで付いてきてくれるという君が運転する自転車に乗せてもらって、自宅から約30分前後(2人乗りじゃなければもっと早いらしいが)という近さ。
そして、外観的には一切変わった所など見受けられない、白塗りで、整った立派な校舎。

見た目からは、私の聞いていた“噂”とは違って、申し分ない程綺麗で大きな学校である。

初めて見る銀魂高校を目の前にして呆然としている私を横目に、校門前でわざわざ自転車を止めて私を降ろしてくれた君は、こっちが苛々するくらいニヤニヤしていた。
銀魂高校の男子制服は学ランらしいのだが、ワイシャツではない自前のシャツを着込んで、上着の前ボタンを1つも留めることなく全開にしてニヤニヤしている君の制服姿は、最早チンピラにしか見えない。

ちなみに、私は前の高校の制服を着てくるわけにもいかない上に、新しい制服が届くのは明日ということで、仕方なく私服で来ている。


「どうだよ。見た目は普通の学校だろ? 別にそんな邪険にするほど変な学校じゃねーだろ?」
君、私エスパーじゃないから、学校の良さを外観から汲み取ることはできないよ」


しかも、見た目からして変な学校ってどんな学校だ。

そう続けて、私は1つ溜め息を零し、銀魂高校の校門をゆっくりと跨ぎ越す。
何だか身体が緊張でぎこちなく動いて、らしくないな、と心の中で笑った。

そんな私の後ろから、君が慌てて自転車を引きながら追いかけてきた。


「おい、待てよ、! チャリ置くから」
「先行ってるよ」
「……別にいいけど―――理事長室、どこだか分かるのか?」
「……」


私はそんな君を肩越しに振り返って足を進めていたのだが、不意に君から言われた言葉に、思わずその足を止める。

目前に聳え立つ、見慣れない校舎。
もちろん、兄が通っているからと言ってこの学校に来たことなどない私に、理事長室の場所などが分かるはずもない。


「ほらみろ。……チャリ置き場はこっちだ。行こうぜ」
「……うん」


呆れたように、でも小さく笑って、君は私の隣まで来て方向転換し、私を促した。
私はそれに小さく頷いて、君の後ろを付いていくことにした。



ここへやってくる間に君から聞いた話によると、今日は理事長に挨拶をした後、校長室に行くよう指示されているらしい。

銀魂高校の理事長は、話を聞く限りは女性のようだ。

君がよく『ババア』と言っているのを覚えているし、そんな理事長と知り合いだという父さんも、私が理事長について尋ねてみると『元気でアグレッシブな婆さん』と称していたのが、理事長を女性と断定する理由なのだが。

―――心底心配になったのは、言うまでもない。(アグレッシブなお婆さんってどんなだ)

前の学校に通っていた時から、銀魂高校の噂は聞いていた。
『入学したくない高校ナンバー1』だとか『人間離れした変人が集まるクラスがある高校』だとか。
一部の女子からは、所謂、『イケメンの多い学校』とも騒がれていたように思うが―――そんなこと、今は関係ない(そんなことより自分のことで精一杯だから)。

そんな学校の理事長ともなると、余程の人格者なのだろうか。



ボーッとそんなことを考えながら、自転車置き場に自転車を止めて職員玄関から校舎内へと入った私達は、事務室で手続きをした後、君引率の下、理事長室へと向かった。

理事長室は、職員室などの、教職員が主に使用する教室が集まる校舎にあるらしく、普通の教室の標識は見当たらなかった。

君と並んで、休日で人の気配の薄い校舎内を歩いて行く。
校舎の外観も綺麗だったが、内装も整っている。

特別新しい学校ではなかったように記憶しているが、建て替えでもしたのだろうかと、どうでもいいことを考えながら辺りを見渡していたら、目の前を歩いていた君が、不意に足を止めた。


、着いたぜ。ここ」
「あ、うん」
「時間通りだから、多分理事長も居るだろ」


ちょいちょいと君が私に向かって手招きして指さした先には、他の教室とは違う、何やら荘厳そうな扉をした入口があり、その扉に金属のプレートで『理事長室』と記されていた。
思いの外しっかりしたその造りに、思わず身を強張らせる。

小学校・中学校で学校が変わってしまうことは普通にあることなのだが、高校という、受験が必要な学校はそう簡単に転校などしないものだ。
それを考えると、何だか不安が込み上げてきて、喉が詰まった。


「……」


それに、今から対面するという理事長が一体どういうつもりで、無期限停学処分を受けている私を受け入れる気になったのか。
それが気になって、胸の中で燻り続けている。

―――なのに。


「理事長ー、失礼しまーす」
「…………ちょっ、君!?」


コンコン、というよりは、ガンガン、と形容した方が正しいような扉を叩く音が静かな廊下に響き、その後に君の無礼極まりない言葉が響く。
それに少し遅れて私が気付き、君を止めようとした時には、既に彼は理事長室の扉を全開にしていた。


「理事長ー? 居んの?」
「居るよ。こっちだ」


緊張している私なんてそっちのけで、君は茫然と立ち尽くしている私の腕をむんずと掴むと、ずかずかと理事長室へ上がり込みながら、部屋の奥へと声をかける。
すると、広くて綺麗に整えられた理事長室の奥―――大きくて立派な机のところに立って、窓の外を眺めていたらしい人物が、君の声に応えながらこちらを振り返った。


「アンタにしちゃ、時間守って真面目に連れてきたようじゃないのさ」
「当たり前だ。なんてったって俺のの為だからな」


その人は私の想像していたような、スーツを着こなす厳格そうな女性ではなく、今時珍しい着物をビシッと着込んで、煙草を優雅に燻らせるお婆さんだった。


「……」
「アンタがだね?」
「……え、あ、はい」


父さんと知り合いだということが影響しているのだろうか、何やら親しげに話す理事長らしいお婆さんと君。

それをただただ他人事のように眺めていたら、不意に理事長が私に振り返り、声をかけてきた。
思わず情けない声で返事をすると、理事長はどことなく可笑しそうに笑う。


「何だイ、そんな気の抜けた声出して。緊張しなくていいから、そこ座りな」
「は、はい」
「え、俺も座っていいのか? そのソファー」
「ああ。その代り、大人しくしてるんだよ」
「やりィ」


理事長に指示されて、慌てて指差された先にある黒革のソファーに腰を下ろすと、君は私の隣にやってきて嬉しそうに飛び込んでくる(何がそんなに嬉しいんだ)。
理事長は何だか、“先生”というよりは“母”のような印象を受ける物言いで君を嗜めてから、私と君の向かい側に腰を下ろした。


「さて、まずは名乗んなきゃいけないね―――私ゃ、この銀魂高校の理事長やってる、寺田綾乃。お登勢って呼ばれてるよ」
「え……お登勢って…」
「源氏名だよ」


何故、高校の理事長に源氏名があるんですか。(お水出か何かですか)

思わず初対面である理事長にそう突っ込みそうになった私だが、何とか口を噤んで押し留まると、はあ、と気のない返事を返した。
そして、理事長と君の視線がこちらへ向いたのを見て、その場で何となく背を伸ばして姿勢を正し、向かいの理事長に向かって言う。


「えと……です。いきなりのことで、まだあんまり状況把握できてないんですが、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。アンタの親父が勝手に手続き進めちまってるのは何となく分かってたから、心配はいらないよ」
「すみません…」


どうやら父の無鉄砲さは、理事長も承知の上のようで。
私の心配していることも、全てお見通しのようである。

理事長は、目の前の小さなテーブルに置かれた灰皿に煙草の灰を落としながら、言う。


「アンタのことは、そこの口も柄も悪い兄貴と、あの子煩悩な父親から色々聞いてるよ」
「……色々?」
「何だよ。何で俺を見る」


色々と私の“何”を親子揃って話しているのかは、今はともかく。

理事長はスパーッと紫煙を吐き出すと、どこからともなく冊子のようなものを1つ取り出して、私と君の目の前へ投げて寄越した。
私は一度君と顔を見合わせた後、それに目を向ける。

何かの、パンフレットのようだった。
でも、パンフレットというには若干薄い厚さのように感じなくもない。


「……何ですか? これ」
「私ゃ説明とかするのは面倒で嫌なんでね。うちの学校のパンフレットだよ。適当にそれ見ておきな」
「アバウトだな、おい。学校の理事長がそんなんでいいのかよ」
「いいんだよ。理事長だから」
「仕事しろよ!」


重みも感じないその冊子を手にして、マジマジとパンフレットの表紙を見つめると、確かに理事長が言ったとおり、表紙には『銀魂高校』の文字が。

所謂、受験生などに宣伝として配る学校のPRパンフレットである。
しかし、学校を宣伝するためのパンフレットがこんなに薄っぺらくていいのだろうか(余計なお世話かもしれないが)。

とりあえず、ペラペラと捲って簡単に目を通す。
何だか、数か所疑問に思う部分はあったが、それは後でじっくり読んで検証することにした。


「とりあえず、うちの学校のことについてはこの後に校長達と会ってもらうから、そん時に聞いて、疑問があったら訊いときな」
「はい」


理事長に言われて、本当に説明をする気はないんだな、と思う。
でも、逆に、話をしないということは何も聞かれないことに繋がって、何だか妙に安堵した。


「私からはそんくらいだよ。顔を見るのが目的だったしね」
「……もう、いいんですか?」
「ああ。もう充分だよ。元気そうだし……兄貴にも親父にも似ないでしっかりしてそうだしね」


そんな理事長の言葉に、隣に座っている君がひどく憤慨していたけれど、私は気にせず苦笑して見せた。
理事長はそれを満足そうに見て、煙草を灰皿へと押し付けると、ソファーから立ち上がる。

それに倣うようにして私と君も慌ててソファーから腰を上げると、理事長が不意に口を開いた。


「この銀魂高校の生徒になるからには、しっかり毎日を楽しむんだよ」
「!」
「うちはアンタが以前通ってた学校に比べたら、評判も見た目も良くない、レベルの低い学校だがね、悪いところじゃない。損はしないはずだ」


現に、アンタの兄貴は毎日楽しそうだろ?

そう言って、君のことを顎で示す理事長。
君は何だか不機嫌そうに顔を歪めていたけれど、不満そうな感じには見られなかった。




「前の学校での“嫌なこと”は、全部この学校で“楽しいこと”に変えちまうといいさ」




『前の学校での嫌なこと』というのが、一体何を指しているのか。
そんなこと、きっと問い返さなくても分かっていることだ。

つまり、この理事長は。
前の学校で私がしでかした事を知った上で、父が言っていた通り、本当に、受け入れてくれたのだ。

これからの学校生活を不安に思う気持ちだとか、ずっと引きずり続けている想いだとか。
何故か全てが、軽くなった気がした。

「―――……ありがとう、ございます」

不安がみっしりと詰まっていた胸が一気に軽くなって、そこに別の何かが詰まっていく。

そんな中で、私には他に言うべきことがあるというのに、お礼の言葉を零すだけで精一杯で。
一言そう告げた私と、私を促す君とを満足そうに横目に見送る理事長を背に、2人で理事長室を後にした。






「理事長直々に歓迎された割には暗いぜ、……顔が」
「……元々だよ」


理事長室を後にした私と君は、次なる目的地―――校長室へと足を進めていた。

来た道を戻るような形で、静かな校舎の中を2人で歩いて行く中、不意に、君が私の顔を覗き込みながら言ってきて。
私は思わず口を尖らせて、低く唸るように言った。


「そんな拗ねんなって。理事長いい奴だったろ?」
「(目上をいい奴呼ばわり…)確かに、すごくいい人だったけど…」
「気にすんなよ。この学校で一番偉いババアが歓迎するっつってんだし、甘えときゃいいんだよ」


他人事だと思って適当なことを言っているように見えなくもない君だが、彼なりに私のことを元気付けてくれているようだ。

確かに、理事長はとてもいい人だった。
停学処分を受けているというデメリットを抱えている生徒を受け入れるなんて、普通では有り得ないことだ。

そう考えると、理事長が私のこれからを案じてくれていることは明白で、理事長がわざわざ直接私と顔を合わせて受け入れを承諾した旨を伝えてくれたことで、今まで胸の中で燻り続けていた、大きな不安は薄れたのだけれど。


―――それでもまだ、不安が残っていることは、確かで。


「あんまり、嫌なこととか哀しくなることとかは……考えないようにしてるんだけどね―――さすがに、甘えてもいられないよ」


そう言って自嘲する私を見て、君は呆れたように溜息をついていた。

そうこうしているうちに、次なる目的地である校長室の前までやってきた、私と君。
プレートに書かれた『校長室』の文字を見上げた後、確認するように君を見ると、何故か心底面倒くさそうに顔を歪めていて、校長室の扉を半眼で睨みつけていた。


「……君、何かすごい顔になってるよ」
「すごい顔にもなるって。だってお前……―――ああ、お前はバカ校長と教頭、見たことねェのか」
「う、うん」
「見たら、きっと俺と同じ顔するぜ、も」


そんな顔になるのは嫌だな、などと思いながら、私は先程の理事長室訪問で幾分慣れたのか、自分から自然と校長室の扉をノックした。
それを見た君が隣で「あーあ…」と力なく呟くのを聞いた時、不意に目の前の扉が静かに開かれ、人影が顔を覗かせる。

もしかして、早速校長先生が出てくるのかと、慌てて挨拶をしようと口を開きかけた時、その扉から出てきた人物を見て、私は思わず硬直してしまった。


「おお、やっと来たか―――校長、編入生が来ましたよ。……付きで」
「おい骨ジジイ、俺をオマケみたいに言うんじゃねェ!」
「……」


校長室の扉から顔を出したのは、ひどく顔色の―――否、ガリガリの身体で、それ自体色が悪い、眼鏡をかけた男の人。
理事長よりは若いだろうが、そこそこ歳を召されている感じ。


そして―――何故か、額の辺りに生えている、おかしな触角。(え、ホントに人間?)


「……え、ちょっと待って、君……えェ? 誰? 今の…」


まるで、深海に潜むアンコウのような、衝撃的な姿をしたその人物を目にして動揺した私は、校長室へ一歩足を踏み入れた君の学ランの裾を掴んで、思わず引き止めた。
戸惑いながら小さな声で囁くように訊ねる私を君は不思議そうに振り返り、何ともないような声音で、私を見降ろして言う。


「誰って、親父が言ってただろ? 『脂肪とカルシウムのコンビ』って。あのカルシウムの方だ」
「いや、そんな投げやりな説明じゃ分かんないよ」
「あー……教頭だよ」
「……え!? き、教頭、先っ…!」


ウソでしょ!?

校長室の中、奥へと歩き進んでいってしまったその人の背を見つめて、驚く。
あんな異質な姿の教師が、この世には存在したのか。(失礼)

ただただ呆然としている私を煩わしく思ったのか、君は「早くしろ」と言わんばかりに私の手首を掴んで引っ張ると、理事長室同様ズカズカと入っていく。
理事長室ほどではないにしろ、広くて設備の整った部屋で、校長用と思われる机と来客用のソファーが見えた。


「何故お前が一緒に居るんじゃ、! 一緒に来るなどという話は聞いておらんぞ!」


落ち着きなく校長室内を見渡していた時、君が部屋の半ばほどで立ち止まったかと思うと、不意に、そんな荒げた声が耳に届いた。

古めかしい口調に、何だか妙に甲高いその声。
反射的に前を向くと、その先には1人の小太りな男性が、顔を歪めて立っていた。


「うるせーな、校長。バカのくせに」
「バカっつった? 今バカっつった? 校長先生に向かってバカっつった?」
「何回言うんだよ、バカ校長」
「退学にすんぞ」


君と、『校長』だというその小太りの男性のやり取りを聞き流しながら、私はただただ、目の前にいる『校長』を凝視した。


何故―――何故、校長先生にまで、おかしな触角が生えていらっしゃるんですか(教頭と親子か何かですか)。


よくよく校長を観察してみると、肌の色も悪い。

どう見ても教頭と同種の生物にしか見えないその人物は、君にひたすら怒り任せに突っ込んだ後、わざとらしく咳払いをし、私に顔を向けてきた。


「とにかく……お主がかの?」
「……え! あ、はい。初め、まして…」


確認するように訊ねられて、我に返って慌てて頷いて見せる。
校長だというその人は、それを見届けて納得したように一度頷くと、専用椅子に腰かけて言った。


「そうか…。校長のハタじゃ。こっちは教頭」
「……兄がお世話になっています。です」


『ハタ』と名乗った校長は、自分の斜め後ろに立つ先程のガリガリの人を示して紹介してくれた。
私は校長と教頭を改めて見た後、社交辞令的な挨拶をする。

真横から君の視線が突き刺さってくるような気がしたが、あえて無視することにした。


「理事長には、もう会ってきたのか?」
「はい。兄に案内してもらって、お会いしてきました」
「理事長は何と?」


そう聞かれた刹那、不意に違和感を覚えて、私は少し目を丸くした。

初めてここへ来る私に、そんなことを改めて訊く必要があるのだろうか。
まるで―――。


「『銀魂高校の生徒になるからには、しっかり毎日を楽しむように』って、快諾してくれたぜ? アンタらと違って」


思わず私が言い淀んでいると、すかさず、横から君が言った。
しかし、何だかその声が幾分冷たいように感じて、私は君を見る。

私の感じていた違和感を、君も感じたのだろうか。


は俺と違ってしっかりしてるし、アンタ達が思ってるような奴じゃねェ」
「な、何を言っとるんだ、! 我々は別に…」
「何とも思っちゃいないならさっさと話進めろよ。理事長なんてどーでもいいじゃん」
「ちょっ、君…っ」


校長先生と教頭先生に向かって失礼だよ。

どこかピリピリとし始めた君を、慌てて宥める。
今にも飛びかかりそうな表情で校長達を威嚇している君に、威嚇されている本人達は動揺している。

どうやら、君が遠回しに釘を刺している『私の不祥事』のことを、案の定あまりよく捉えていないようだ。
まあ、校長達の反応が、真っ当と言えば真っ当な反応ではあるのだが。

不意に、君が私をチラリと横目に窺い、何故かニヤリと笑った。


「―――校長、教頭……アンタ達、うちの親父に会っただろ?」
「お、親父って…」
「校長、あの恐喝親父ですよ。有名武道家の…」
「あの親父、すっげー短気だろ? 俺も困ってんだよ」


不敵な笑みは崩さないまま、君は何を思ったのか、父の話を始める。

その直後、突然校長と教頭の表情が硬く、ものすごい早さで真っ青に変化していった。
目の前の2人の表情を見て更に笑みを深くする君を、私は顔を引き攣らせて窺う。


のことになると、殊更見境なくなる親父だからなァ…。アンタらがあんまコイツの編入に乗り気じゃねーって聞いたら、きっとここに乗り込みに―――」
「ようこそ、銀魂高校へ!!」
さん……いや、様! 困ったことがあったら何なりとお申し付けを!!」
「……」


君…君は確実に父さんに似てきてるよ。
性格が。

君の脅迫紛いな言葉に180度態度を変えて、何故か私に向かって揉み手しながらヘコヘコしだす校長と教頭。
怯えた目のまま、ヘラヘラと無理矢理作り出した笑顔で目の前まで迫ってきたその2人に、思わず後退する。

そのまま君をチラリと窺い見ると、ひどく満足げな顔をして、ほくそ笑んでいた(どうしてくれるんだ、この状況)。

ジリジリと縋りつく様に迫ってくる小太りさんとガリガリさんから遠ざかる為に、必死に後ろへ下がっていくと、23歩下がった辺りで、ポスンッ、と壁のようなものに背を取られて、逃げ道を阻まれてしまった。


(え、ちょっ……こんなに狭かったっけ?)


あまりに突然の壁の出現に、思わず内心パニックを起こす。

だが、冷静になってみると、背に当たる感触が壁の硬さとは違うことに気付いた。
壁のように、私の背にピッタリとくっついているのだが、明らかに温かみがある、それ。
そして、何が起こったのか、目の前の校長と教頭のみならず、先程まで愉快そうに笑っていた君ですら、私の背後を凝視したまま動きを止め、目を丸くしている。

「何だ?」と、私が1人で首を傾げた、その時―――。




「オイオイオイ、なーに卑猥物ぶら下げた珍獣同士で結託して、女の子に迫ってんスかァ?」




ちょうど私の頭の上辺りから、気だるげな雰囲気を漂わせる低い男の人の声が降りてきた。

声に驚いていると、今度は後ろから、肩を掴まれるようにして誰かが手を置いてくる。
思わず肩を竦めてから、恐る恐る首だけで肩越しに後ろを振り返ると、真っ白な白衣が視界に入った。

少しくたびれた白衣に、だらしなく、最早『締めている』というよりも『結ばれている』だけのネクタイ。
微かに香るのは、煙草の葉の香りと、お菓子のような甘い匂い。


そして、視線を上げていくと、そこには―――銀色の、ふわふわとした髪。


「……あれ、何でオメーがこんなとこいんだ?


驚いている一同を余所に、その銀髪の人は、気の抜けた声でそう零した。








これが、

誰もが望んだ必然。


(非常識だらけな必然)










*踏み入れる場所に戸惑うヒロインと、何とかしてヒロインを守ろうとする兄。そして、多くの出逢いに絡まる不安。
 
*やっとこさ本編キャラを出すことができました!プロローグと0話の2つを経て、やっとです。
 急いで書いたというのもあるけど、初登場キャラが多すぎて、なんだかよくわからないグダグダな文章になってしまいました(いつものことだけど)。
 最後の最後に出てきたのは、0話のアトガキで宣言した、あの人です(笑)
 実を言うと、銀八先生とヒロインの絡みより、銀八先生とヒロイン兄の絡みの方が書きたいと思っている漣であります(どーでもいいよ)。

 
次回はとうとう銀八先生にご挨拶です!





*2009/12/08 加筆修正・再UP。