―――銀さんって、身長いくつ?」
「……は?」


いつもの如く、怠惰な1日を過ごしている万事屋。
ここ数日めっきり来なくなっている依頼と、仕事を探す気力すら感じさせない社長(一応)の俺に嫌気がさし始めているらしい新八と神楽が、万事屋に姿すらない今日。

不意に、社長秘書という名目で毎日のように万事屋の世話を焼いてくれている少女・(今日も素敵に可愛いですね、お嬢さん)から放たれた言葉に、俺は思わず情けない声を上げた。


「身長。背の高さだよ。銀さんって、背高いよね」


呆気に取られてポカーンとしている俺を尻目に、は手元の文庫本からチラリと、向い側のソファーに横たわる俺を見て続ける。

いや、それくれー馬鹿な銀さんでも分かりますよ、ちゃん。
つーか、藪から棒に何言い出すんだ。

そんな、若干上目遣いで見てくると目を合わせて、やっとの訊いていることを理解した俺。
ああ、と小さく応えると、俺は手に持ったジャンプに目を戻して言う。


「健康診断とか行ってねェからなァ……分かんねェ」
170はあるよね、確実に」
「あるんじゃねーの? はっきり数字にゃ出来ねェけど」


今週号のジャンプに目を通しながら適当に応える俺に、はふぅーん、と素っ気なく零し、俺と同じように文庫本へと視線を戻した。
そして、暫く黙っていたかと思うと、突然、ソファーから立ち上がる。


「銀さん、銀さん」
「あー? んだよ、どーした」
「分からないなら、今測ってみようよ」
「…………はいィ?」


順調に読み進めていたジャンプのページを捲る手を止め、俺はの提案に対して怪訝そうに顔を歪め、を見上げた。
先程まで読んでいた文庫本は、パタリと閉じてソファーに置かれている。(小難しそうな本だ)

本当に、一体何がしたいのか、この娘は。

まあ、ラブな俺としては、俺を知ろうとしてくれているようで嬉しい限りなのだが―――何故、身長限定?

バサリ、と手からジャンプを滑り落とし、首を傾げながらその場に起き上がる俺に、は更に続ける。


「裁縫用のだけど、2mのメジャー持ってるんだ。身長計ほど正しくは測れないだろうけど…」
「……いや、別にいいけどよ」


どーしちゃったの、突然。

思わずそう訊ねた俺に、は事も無げに言ってのけた。




―――恋人同士の理想の身長差は15cmなんだって」




雑誌に載ってたから気になって。


……。
……メジャーぁぁぁぁぁ!!

そう言ったに、メジャーを至急持ってくるように指示した俺。
それに従ったがメジャーを持参し、近くにいた定春も巻き込んで、俺の身長測定が開始した。


「定春は下、押さえててね」
「ワンッ!」


に言われて、直立不動な俺の足元にドシッと前足を置く定春。

前から思ってたんだが、何でこいつはの言う事なら聞くんだ?(あ、神楽もか)
つーか、足の上に手ェ乗ってんだけど。
重い、激しく。

そんな俺に見向きもせずに、はメジャーを下からビーッと伸ばして、俺の頭の位置に持ってくる。
俺よりも大分チビなは、背延びをしてグッと俺の顔に近付いてきた。(ヤベッ、ちゅーしてー)

俺が心の中で悶々としていると、が驚いたように声音を高めて言う。


「んー……おっ、177cmだって、銀さん」
「意外と長身じゃねーか。……で、は?」


メジャーを手に興味深げに俺の身長を告げる
そんなを近くで見降ろして、俺は何気なく訊いてみた。

内心、気が気ではない。(たかが身長差、されど身長差)


「私? ……157cm、だったかな」
157? つーこたァ…―――
「私と銀さんは、20cm差だね」
「……」


すごーい、と笑うを見降ろして、俺は一人思う。








あと5センチ。

(縮め、俺!)(まあ、役得だからいいか)(いや、やっぱよくねェ!)




「あっ、でも恋人じゃないから関係ないか、私達」
「ぼふぇッ! (何で最後に盛り下げるかな、この娘は!)」












アトガキ。