今更だが、よくよく考えて見ると俺は、彼女のことを何一つ知っちゃいないのだ。
知っているのは、名前と年齢と、俺自身が今現在まで見てきた“彼女”だけしか、ない。
「―――なあ、」
「……? 何? 銀さん」
俺は固いソファーに身を預けたまま、向かい側で読書に勤しむを呼ぶ。
読書をする時だけ眼鏡をかけるは、眼鏡の奥で活字を追っていた目を俺に向けて、軽く首を傾げた。
「お前、生まれどこ?」
「……は?」
「育ちは?」
「え、何、いきなり」
「誕生日は? 家族は? 今までの生活は?」
「ちょっ、銀さ…―――」
戸惑うを無視して、俺はひたすらに問いかける。
そんな俺を、はただ、困ったように見つめるだけ。
「ここに来る前は―――何、してた?」
だって、酷ェだろ。
俺や、新八や神楽や真選組の奴らだって、知らねェうちに救われちまってるってのに。
「……銀、さん?」
俺らは、俺は。
“お前”を知らねェから。
救うことすら出来ねェなんて―――酷ェ、話じゃねェか。
何だからしくもなく、考えれば考えるほど深みに嵌ってしまった俺は、いつの間にか身を起こして向かい側のに近付いていた。
は不思議そうに、ただ真っ直ぐに、目の前の俺を見上げる。
「銀さん」
「……」
「……銀さん、」
何でお前は、俺に教えてくれねェんだろうな。
全てとは、言わねェけど。
無理矢理話せとは、言わねェけど。
俺だって、隠し事の一つや二つ―――に話せねェことの一つや二つ、ある。
だけど、不安だらけだろーが。
―――こんな、一方的な想いだけで、お前を護るなんて。
「……、」
「ん?」
「……、悪ィ」
「……んーん。―――ありがとう」
そう言って、やっぱり答えを返さない。
辛そうに、弱そうに、哀しそうに、ただただ笑うを、俺は自分の腕の中に力任せに抱き締めることしか出来なかった。
嗚呼、君は。
(こんなに小さくて)(こんなに弱くて)(それでもまだ、隠すつもりなのか)
アトガキ。