そいつは、とても真っ白だと、俺は思う。
「あ、お疲れ様です、土方さ―――」
笑って振り返ってきたそいつは、俺を見るなり言葉を止めて、目を丸くした。
それを俺は、思いの外冷めた気持ちで見下ろす。
穢れを知らない奴だと、俺は思う。
―――だから、だろうか。
こいつの傍にいると、必然的に俺の汚さが浮き出てくる気さえ、する。
「……土方さん?」
「…………あ?」
血に塗れているわけじゃない。
そんな下手な『斬り方』はしない。
けれど、血のニオイをまとった俺を、そいつは顔を強張らせて見上げた。
お前は真っ白で綺麗なのに、何でそんなに敏感なんだ。
汚いものに。
薄汚れて、歪んだものに。
「……土方さん、」
「……だから、何だよ」
―――狂気に。
「また、斬ってきましたか?」
「……ああ……まあ、な」
ゆっくりとその場に立ち上がり、俺と向かい合う。
一歩前にが足を踏み出してきたと同時に、反射的に身体を後退させた。
「―――待て」
「……?」
「今は、それ以上……近付くんじゃねェ」
真っ白。
そんなお前を俺が、俺如きが。
汚すわけに、いかねェだろーが。
「寄るな。……頼む、から」
「……」
一歩後退りする俺を見上げるそいつの顔は、ひどく哀しげで。
俺まで、顔が歪んでしまう。
そんな時。
「何、言ってるんですか」
静かな和室に、凛としたの声が響いた。
その声はどこか、憤りを含んだような哀しい音。
「また1つ、背に背負ってきた人が。重いものを、背負い込んでいる人が、目の前にいるから」
そいつは、俺なんかよりずっと冷静で。
けれど、俺なんかよりずっと、色々と重てェもんを背負っているような顔をしていて。
「折角少し―――分けてもらいに、きたのに」
場違いなほど力の抜けたそいつ独特の空気の中で笑って、俺の、この狂おしいほどの感情を、奪って行く。
しばし呆然とした俺の背後に回って背中に触れるの手は、小さいのにとても温かく感じた。
さらば、狂わしき俺よ。
(いつだって)(そうやって)(知らないうちに消えてゆく、この、感情の狂瀾)
アトガキ。