Nobody Knows   06




その日、私は銀さんの執拗な誘いを断ることが出来ず、緊急でお登勢さんに頭を下げて休みを貰うこととなった。
「アンタは良く働いてくれたから構わないよ」と、それはそれは寛大なお言葉を投げかけて下さったお登勢さんだが、私は寧ろ「何言ってんだ、怠け者。もっと働けコラぁぁぁぁ!!」とか言ってくれた方が、私の精神的には大いに助かったのだが。


「―――……で?」
「で? って、何が?」
「仕事がある私を呼んで、わざわざ連れ出した理由が……これ、ですか?」
「これとはなんだ! 銀さんにとってはなァ、命と同じくれー大切なもんよォ」
「なら、一生1人でやってて下さい」


私と銀さんは今、巷でも有名な甘味処へと来ていた。
向かい合わせになるように席へついて、何をするのかと思えばメニューを広げて上から下まで片っ端から、店の甘味を店員さんに注文しまくる銀さん。

いつもは煌くことを知らない、死んだ魚のような目が、ここぞとばかりにキラキラと輝いている。
ある意味、怖い。


「……銀さん、当たり前のこと訊いて悪いんだけど、お金は……?」
「んー? ―――ああ、気にすんな気にすんな」
「いや、気にするよ。自分の家の家賃すらまともに払えないような人が何言ってるの」
「家賃はすぐには払えねェ。けど、甘ェもんは今すぐ喰う」
「我が強すぎるにも程があるよ、銀さん。ゴーイングマイウェイどころじゃないよ」


こういう人にはなるまい、と私が溜息をついていると、店員さんらしき人がカラカラとカートに大量の甘味を乗せて、こちらにやってきた。
注文を受けてくれた店員さんとは違う人のようだ。


「えーと……チョコレートパフェにミルフィーユ、抹茶アイス、カスタードプリン、ショートケーキ1ホール(小)にガトーショコラ、みたらし団子、桜餅…―――」


カートから取り出してテーブルの上にドンと置かれたお盆の上には、店員さんが読み上げていく甘味が見事に積まれていて、店員さんが億劫そうに一つ一つテーブルへ並べていく。

私があまりのその量に驚愕して目を丸くしているのに対し、目の前の銀髪兄さんは、イイ歳になっているのだろうにも関わらず、今にも涎を垂らしそうな勢いだ。(見ていて可哀想なくらい)

それにしても―――この店員さんの声は、どこかで聴いたことのある声だ。


「いやァ、最近依頼がからっきしだったからよォ。金ねェわ糖分摂取できねェわで、ここ数週間イライラしてたんだよ」
「へー、そ、そうなんスか……大変だねェ、お客さんも」
「だろー?」


抹茶アイスを手元に引き寄せてスプーンに手を伸ばしながら喋る銀さんに、少し戸惑いながらも返事をする店員さんの顔を見上げてみると、あからさまなほど銀さんと私から顔を背けているので、誰だか分からない。
背格好と声からして、中年くらいの男性のようだが―――。

私が1人、うーん、と唸っていると、不意に、抹茶アイスを堪能していた銀さんの口端が嫌に吊り上がったのが見えた。


「アンタも大変だなァ、こんな似合わねー仕事して。……ま、仕事選んでられる立場じゃねーか? ―――長谷川さんよォ」
「ゲッ……!」
「……長谷川さん?」


ニヤニヤ笑って横目に自分を見る銀さんの言葉に声を上げた店員さんは、咄嗟にこちらを振り返った。
顎鬚に、少し垂れた目―――。

銀さんの飲み仲間である、長谷川泰三さんだった。


「よーく甘味処の面接なんて通ったな。……グラサンは?」
「……サングラス取れば働かせてやるって、店長に言われたんだよ」
「こんにちは。お久しぶりです、マダオさん」
「おお、ちゃん。……つーか、今マダオっつった? マダオっつった?」


長谷川さんとは、数日前、神楽ちゃんと一緒に定春の散歩をしていた時に、散歩コースにある公園で知り合った。
以前は、幕府の入国管理局という所の局長さんとして勤務するバリバリのエリートだったらしいのだが、ひょんなことから銀さんに仕事を依頼したが為にトラブルを起こし、その責任を取るよう『切腹命令』を出されて怖くなり逃げ出し、半ばリストラされたようなものだとか。
最近は職を転々とするフリーター。(要は銀さんと同じプー太郎さん)

銀さんと神楽ちゃん曰く、“まるでダメなオッサン”。
略して、マダオさん。

可哀想だとは思うが、私も神楽ちゃんの言い分には少し、納得がいってしまっているので、同情出来ないので、この人と会うとどうも居た堪れない気持ちになって困る。


「お仕事、見つかってよかったですね」
「ああ、まあ、ね。ちゃんはいいねェ、銀さんとデートか?」
「いえ、違います。強いて言えば保護者的な同伴です」
「ちょっとチャぁぁぁン!? 何もそんな笑顔で即答することないんでない!? しかも母親気分かよ! 普段あんま笑わねェくせによー……可愛いから許すッ!!」


私が長谷川さんに軽く言葉を返すと、ミルフィーユに早くも移っていた銀さんが1人で騒ぎ始めた。
どうやら、久しぶりに山ほど甘いものを食べられるい現状にテンションが上がり過ぎておかしくなってしまっているらしい。

長谷川さんがその様子を見て苦笑しているのを横目に、私は銀さんを完全無視。

長谷川さんはしばしそのまま銀さんと会話を交わした後、厨房の方へと戻っていった。
きっと、銀さんが頼んだ残りの注文品を取りに行ったのだろう。


「……」


そういえば、銀さんは初めから、ここで長谷川さんが働いていることを知っていたようだった。
となると―――。


「銀さん」
「ん?」
「……何でもない」


目の前にある様々な甘味を見下ろして視線だけを銀さんに向けると、ショートケーキ(ミルフィーユはどうした)を嬉しそうに口に運んでいる。
イイ歳のお兄さんが何してるんだ、と呆れながらも、私は嫌な予感はしたものの口を噤んだ。
多分、言ってもこの人は聞き入れないだろうし。


「―――も好きなの喰っていいぞー。今日は銀さんの奢り!」


銀さんの意図が何となく分かってしまった私は、何とも言えない複雑な気分で、テーブルの上にあったカスタードプリンに手を伸ばす。
スプーンでプリンを掬い取ると、とても柔らかくて、口に運ぶと程よい甘さが口の中に広がった。

……美味しい。

甘いものは嫌いじゃない。
寧ろ、銀さんほどではないにしろ好きな方なので、私は長谷川さんに申し訳なく思いながらも、そのままプリンを掬う手を進めた。


「……」


銀さんは食べるのに必死で、暫く私達の間には言い知れない沈黙が続く。

何となく、思考が逸れていく。
―――今、気が付いたことがある。

お登勢さんの店の手伝いやら銀さん達万事屋の家事やらを毎日やっていたり、色々な人と知り合ったりと、様々な出来事が最近あったおかげで、自分が『異世界の人間』である自覚がなくなってきたように思う。
こうして、ボーッと、何となく時間を過ごして考えてみると、何だか、この世界に溶け込み始めている自分が少し、嫌になる。

もしもこのまま、帰る事が出来ないのならば。
きっと、私はここで何事もなかったかのように過ごし続けて。




―――忘れて、しまうのではないだろうか。




考え出したら、私の思考は止まらなくなってしまっていた。

父さんの声も。
君の顔も。
母さんの姿も。


想いの先にある―――“家族”も。


過去の記憶として、消えてしまうのではないだろうか。


「―――……?」


怖く、なった。

半分ほどしか減っていない、カスタードプリン。
手が思うように動かなくなっていた。

銀さんが怪訝そうに名前を呼んできたけれど、私は自分の手が震えていることに気付かれないかどうか必死で、返事をすることが出来なかった。






「ふはーっ! 満足満足」
「そりゃあ……これだけ食べればね」


長谷川さんが働いている甘味処に入って、早3時間。

残り最後の甘味をようやく食べ終えた銀さんは、背凭れに体重を乗せて膨れた腹を摩り、満足そうに笑った。
それを見て、私は驚くと同時に呆れて溜息しか零せない。

さすがに3時間も同じ場所に腰を下ろしていると疲れるので、出来れば早く店から出たいのだが、銀さんがまだ動ける状態じゃなさそうなので、当分それも難しい。


「……銀さん、今月これだけ食べたんだから、来月再来月は甘い物禁止ね」
「え? 何で」
「何で、って……銀さん、本当に糖尿病になってもいいの?」


入院したいなら別だけど、と付け足して。
私は無意識に、視線を窓の外へと走らせる。


「―――……あれ?」
「あ? どーしたァ?」


不意に外へ走らせた視線の先には、見覚えのある黒い制服の人物が2人。
私が見た先へ同じように顔を向けた銀さんが、「げ」と苦々しい声を出したのが聞こえた。

見回り中なのか、それとも何か事件でもあったのか。
2人で何やら話をしているようだ。(遠くてよく見えないが)

アレ、総悟君と……土方さん、だよね?
……あ、総悟君こっちに気付いた。


「? ……帰るのかな? パトカー乗り込んじゃった」
「(やった!)おーおー、そのまま帰れ帰れ」


確かに今、はっきりと目が合ったはずの総悟君は、隣にいた土方さんに何かを囁くと、2人して近くに停めてあったパトカーに乗り込んでしまった。
目が合ったのは気のせいだろうか、と私が考えていると、彼らの乗り込んだものらしきパトカーが走り出す。

そんな時。
それを見つめていた私は、ふと、ある違和感に気が付いて思わず銀さんを呼んだ。


「―――銀さん銀さん」
「んぁ?」
「パトカーが……凄いスピードでこっちに向かって来てる、けど……」
「…………は?」


パトカーは脇道に目もくれずに、私達のいる甘味処に向かって猛スピードで発進していた。
どこかで方向転換するにしてはスピードが出過ぎているように感じるのは、私の思い違いだろうか。

私が不思議に思って窓の外を指差すと、銀さんが億劫そうにそちらを見て―――顔を真っ青にした。


「オイオイオイオイ、突っ込んでくるってか! 突っ込んでくるってかァ!! パトカーでェェェ!?」
「銀さーん、空いた皿下げさせてもらうぜー?」


先程まで、満腹感で億劫そうに椅子の上でだらけていた銀さんは、目にも止まらぬ速さでその場に起き上がる。
タイミングが良いのか悪いのか、そこに長谷川さんが現れたが、銀さんは窓の外に釘付けで。
私も、その場から動けずにいた。

否―――動かないようにしていた。




ドガシァァァァァンッッ!!




「「おぶああああァァァァ!!?」」


パトカーは真っ直ぐ、止まることなくこちらに向かってきたかと思うと、器用に銀さん(おまけに長谷川さんも)をそのまま撥ねる様に吹き飛ばした。
キキィ、とけたたましくつんざく様なブレーキの音と、すぐ横にあったはずの窓ガラスの破片が散る音が耳に響く。
目の前にあったはずのテーブルと皿達は、一瞬にして視界の外へと消えていった。

パトカーが事故起こしていいのか……?
……というか、銀さんと長谷川さんが!!

呆然と、すぐ目の前に止まったパトカーを見つめて、私が頭の中でパニックを起こしていると、パトカーの窓が静かな音を立てて下がり始めた。


「―――ー、無事ですかイ?」
「……ッ、そ……総悟く……ッ……!」


すぐ目の前にひょっこり出てきたのは、整った爽やかな笑顔だった。
人を2人も、しかも室内にいる人をパトカーで撥ね飛ばしておいて、よくここまで清々しく微笑むことが出来るものだ。


「いやァ、隣で土方さんが騒ぎやがるもんで、うっかりハンドル操作誤っちまったィ。でも怪我人もいねェようで良かった良かった」
「いや、撥ねてるから。人2人吹き飛ばしてるからね。立派な犯罪だよ」
「うおォォい!! 総悟てめェ、俺のせいにしてんじゃねーぞ、コラぁ!!」


ははは、と爽やかに笑ってパトカーから降りてきた総悟君。
その後ろでは、衝撃でどこかにぶつけたらしい赤くなった額を抑えて激昂する土方さんの姿があった。
この様子だと、総悟君は悪いとはこれっぽっちも思っていないようだ。

……恐ろしい人だ。(声に出しては言わない。怖いから)

幸い、中途半端な時間帯に私達はいたので、店内は人があまりいなかった。
しかし、店員さんや店主さん達は呆然としていたり、愕然としていたり。(当たり前だけど)


「何でィ、素っ気ねェなァ、。折角久しぶりの再会だってーのに」


ぶー、と口を尖らせる総悟君は、何故か私の目の前まで歩み寄ってきた。
私は未だに椅子に腰をかけたままなので、総悟君が自然と腰を屈めて視線を合わせる。


「ここまで過激(で危険)な再会、生まれて初めてだよ、総悟君」
「そいつァ良かった―――忘れられねェ日にさせてやりまさァ……」
「「待て、ゴルぁぁぁぁぁ!!!」」


苦笑する私の背にある背凭れに、私の肩の上辺りから片腕を突いて、物凄い至近距離にまで寄ってきた総悟君。

いつも思うのだが、何故この世界の人はやたらと顔を近付けてくるのだろうか?
次元的な世界は違えども同じ日本人には変わりないのだから、こういったスキンシップは外国人より苦手なはずなのに―――そう思っているのは私だけか?

そんなことはともかく。

何だか艶のある声だな、などと、鼻先にある総悟君の顔を眺めながら思っていると、二重になった低い怒鳴り声が総悟君の後ろから聴こえてきた。
そこには、前方がぐしゃぐしゃになってしまったパトカーからいつの間にか降りてきていた土方さん(相変わらず瞳孔開き)と―――頭からとんでもない量の血を垂れ流している銀さんの姿。

いつもよりも瞳孔が大分開いている土方さんもある意味心配ではあったが、私は薄汚れた着流しを身に纏って銀髪に瓦礫の屑を絡ませているにも関わらず総悟君を睨みつける銀さんを見て、ギョッとした。


「ぎ、銀さん! すごい血出てるよ!」
「……え? マジ? そういやさっきから視界が赤く……―――って、頭ァ!? 頭割れたァァァァ!!」
「良かったじゃねェですかイ、旦那。前より大分二枚目になりましたぜ」
「マジでか! ……って、そんなんで誤魔化されるかァァ!! 頭から血ィ流してまで二枚目になんてなりたかねェよ!!」

頭から出血している割には元気そうな銀さんに、少し安心する私(きっと定春で慣れてるんだ)。
しかし、尋常じゃない量の血を流しているので、放っていくわけにもいかない。
私は持っていたバック(最近購入)の中から、常備している小さなタオルを取り出す。


〜……」
「はいはい。これで拭いて下さい、血」
「……まるで親子だな。ダメ息子と母親」


フラフラとした足取りで歩み寄ってきて総悟君を押しやる銀さんに、私がタオルを差し出してその額に押し付ける。
すると、その姿を見ていたらしい土方さんが、不意にボソリと呟いた。

……どんな例えだ、それ。

土方さんのその物言いが面白くて、私は思わずクスリと笑う。
反して銀さんはどこかムスリと不機嫌そうにしていたが、土方さんはそれを気にかける様子もなく更に口を開いた。


「お前も大変だな。こんな野郎に付き纏われて」
「え? あ、はあ……」
「土方くーん、人のこと寄生虫みたいに言わないでくんない? しかも、何肯定しちゃってんの」
「あながち間違っちゃいねェでしょ? 旦那」
「君はもう黙っててくんない!? ややこしくなるから黙っててくんない!?」
「銀さん、黙って大人しくしてないと血ィ止まらないよ」


総悟君と土方さんから(何故か)私を遠ざけるようにして隣に座っていた銀さんが、総悟君の横槍に奮起して、突然立ち上がった。
それによって頭を押さえていたタオルが届かなくなった私が、思わず語気を強めて言うと、銀さんは小さくなって私の隣に再度腰を下ろす(……何か可愛い)。


「―――……で? 君達こんな派手なことしてまで何しに来たわけ? まさか俺とのカップルっぷりにヤキモチ? いやァ、みっともないねー、男の嫉妬は」
「旦那とがカップルだっていう妄想はさて置き……奇遇ですねィ。俺もそう思いまさァ。だから死ね土方」
「だってさ。死ね土方」
「お前ら打ち合わせでもしてんのォォ!?」
「……」


この3人はどうやら、同じ空間には置いてはいけない3人のようだ。
会話が、全く成り立っていない。

何より、何だか土方さんが哀れで可哀想だ。(でも口には出さない)


「……何か用でもあったんですか?」


このままでは話が進まないと判断した私は、自ら話を切り出す。
とりあえず、銀さんと総悟君に話を聞くことは不可能だとも判断し、土方さんに視線を向ける。
土方さんは、燻らせていた煙草を口元から離し、ふぅ、と一息紫煙を吐き出して言った。


「ああ……―――お前、初めて屯所に来た時以来、顔出さなかったろ」
「はい」
「近藤さんがあの日以来お前のこと、妙に気に入っちまったらしくてな。……まあ、総悟や山崎や、他の隊士もなんだが」
「へー……それは、嬉しいですね。光栄です」
「……。本当に嬉しいって思ってんのかよ……?」


『初めて屯所に来た時』とは、以前、私がかぶき町外を散策するついでに真選組屯所へ潜入し、隊士の人達と無理を言って手合わせをされてもらった時のことである。
流石に副長である土方さんとの手合わせまではいかなかったが、総悟君とは手合わせをさせてもらった。

―――まあ、勝つことは出来なかったのだが。(勝負つかなかったし)

とにかく、「いつでも遊びに来い」と言われてはいたのだが、あの時以来、真選組屯所へ足を運んでいないことを思い出し、「近藤さん元気かなー」などと考える。


「だから何だってェの?」
「てめェは黙ってろ、糖尿野郎」
「あっ、今言っちゃった? いけないこと言っちゃったね、お前。言っとくけど銀さん糖尿じゃないから。予備軍だから」
「銀さん、ちょっと口閉じててもらえない? 話が進まないから」
「……」


ようやく、頭から滝のように流れていた血が止まって、いつもの調子が出てきた銀さん。
私の横で後ろの背凭れに腕を回し、ふてぶてしく自らの長い足を組んで、ニマァ、と笑いながら言う銀さんに、思わずイラッと来て(ちょっと、本当にちょっとね)、横目に睨み付ける。

すると、案外あっさり銀さんは口を閉じてくれた(口元が引き攣っていたが、それは見なかったことにする)。


「―――それで、あの……本題をどうぞ」
「あ、ああ。近藤さんがあんまり喧しいんでよ、俺らと隊士連中で話し合った結果―――」
を真選組に入れちまえば、早ェ話、近藤さんも騒がずに済むだろうってことに落ち着いたんでさァ」
「ちょっと待てェェェェェ!!」


ガタッ!という音を立てて勢い良く立ち上がったのは、真横にいた銀さんだった。

おかげで反応が遅れたよ、私。
これ、私の話でしょ?

しかし、そこは私。
面倒なので何も言うまい。


「話がよく分かんねェ方向にひん曲がってってんぞ!」
「ひん曲げてんのァてめェだ、若白髪ァ!!」


そうこうしていると、銀さんが、突っ込んだままの目の前のパトカーに背を預けている土方さんの胸倉を掴み、鼻先がくっ付くのではないのかと言うほど顔を近付けて凄む。
土方さんも何故かそれに便乗して、銀さんの着流しを掴み上げるから性質が悪い(総悟君、水飲んでないで止めて)。


「つまりですね、旦那。を真選組の隊士として迎えるって話ですよ」
「はあ?」
「―――……え……?」
「隊士としての腕は、もうこちらで実証済みですしねィ」
「俺ァ気乗りしねェんだが、どーも総悟を含むお前にやられた隊士連中が乗り気でな……まあ、真選組としては、隊士はいくらいても無駄にゃなんねェし、近藤さんも同意してる」




―――どうだ?




総悟君と土方さんの目が私に向いて、そう言っている気がした。








求めることも、

求められることも。

私は何も、許さない。

(中途半端な気持ちが、邪魔をする)









アトガキ。


そして、ヒロインの、ちょっとした葛藤。

*ヒロインにとっての”家族”は、誰よりも、とても高い場所に位置されています。
 これが、これからの物語に色々と関わってきます。




*2010年10月29日 加筆修正・再UP。