Grow up   02




こんなことなら、無理矢理にでもこの腕に、抱え込んでいればよかった。
無理矢理にでも、目の届く範囲に居させて―――傍から、離れさせなければよかった。


「……は? ちょっ、多串君。もー1回言ってくんね?」


依頼もなく、も朝から真選組へ行ったきり帰って来ない、その日の夜。

いつもならこの時間帯には下の階のスナックか万事屋にいるはずのの姿はどちらにもなく、夕飯も食べ損ねた状態のまま「はどうした」と神楽と2人で騒ぎ立てていた時。
不意にかかってきた電話に、俺はただただ驚愕した。




『……のヤツが、うちの局長庇って―――撃たれた』




グッ、と。
心臓が、握り込まれたかのように大きく、鼓動した。

あまりの出来事に思考が追い付かず、耳に入ってきた言葉を頭の中で反芻する。
俺の聞き間違いであってほしいと願いながらも、再度電話越しの土方に確認すると、返ってきた答えは全く同じもので。
焦りを誤魔化す為に言った『多串』にも突っ込まずに、半ば掠れたような小さな声で言ってくる土方に、事が真実だと突き付けられた。


「―――ッ、ふざけんな、てめェ……!!」

「! ……銀さん?」
「銀ちゃん、どうしたネ?」


思わず、電話越しに土方へ怒鳴り散らすように声を荒げた。
滅多に声を荒げない俺に驚いたのか、まだ残っていた新八とソファーでゴロゴロしていた神楽が、こちらを不安げに振り返る。
俺は横目にそんな2人を見て、何とか気持ちを落ち着かせると、いつもの数倍は低いんじゃねェかと思うほどの声で、言葉を紡ぐ。


「……俺ァ、いつも通り女中の仕事手伝ってんのかと思ってたんだが……?」
『今日の警備に人手が足りなくてな。仕方なくに頼み込んで……連れて行った』
「どーゆーつもりだァ、ぇえ? 前に言ってたことと随分違うんじゃねーのか? 副長さんよォ」
『……悪ィ。返す言葉もねェ』


電話越しではあったが、普段のふてぶてしい尊大な態度が嘘のように、心底申し訳なさそうに言う土方。
俺はしばし黙り込んだ後、重々しく溜め息をつく。


―――らしくねェ。


落ち着け、俺。
は別に、死んじゃいねェんだ。

コイツの話じゃ、はあのゴリラ局長を庇って肩に弾丸を受けちまったらしい。
だが、傷は命に関わるような傷でもない。
すぐに手当てして、もうすぐ目を覚ますだろうと。

言いてェことは色々あるが、今はひとまずの安否をこの目で確認することが先だ。


「……まーいいや。とりあえずおめェらの屯所行くからよ、が目ェ覚ましたら伝えといてくんねーか」


俺はそれだけ土方に伝えると、早々に電話の受話器を置いた。
何とも言えない苛々を誤魔化すように、頭を掻き毟る。

どうしてこう……目を離した途端に危ねェ目に遭っちまうのかねェ……。

最後に1つ溜め息をついて、放り投げていたスクーターのキーを手に取って玄関へ向かおうと身体を反転させると、複雑な顔をした新八と神楽が並ぶようにして立っていた。


「今の電話、土方さんからですよね?」
「んー? ……ああ、まあな」
「もしかして、に何かあったアルか!?」
「……あー、なんだ。そのォ……」


―――ゴリラ庇って怪我した。


そう簡単に伝えた瞬間、新八と神楽の顔が恐ろしく歪んだ(そりゃもう、口に出すのも憚れる程)。


「け、けけけけけけ怪我って!! どどどどどのくらい!?」
「生きてるアルか!? 死んでないアルか!?」
「縁起でもないこと言わないでよ、神楽ちゃん!! ……でも、何で怪我なんか……」
「理由なんてどーでもいいアル! あんの税金泥棒共、ボッコボコのギッタギタのグッチャグチャにしてやるヨ!!」


定春ゥゥゥー!!と叫びながら、どんな想像をしたのか真選組へ報復しようと企む神楽を、冷静ぶってはいるが狼狽しまくりな新八が必死になって止めている。
俺はその光景に顔を引き攣らせながら、1人先に玄関へと足を進めた。

今の様子ならほっといても勝手に来るだろ。

そんなことを考えながらも、いつもより足早に玄関を出て、愛用のスクーターに跨った。





***************





ふと目が覚めると、すぐ目の前―――というよりも、視界全体に近藤さんの強烈な泣き顔が広がっていた。


「…………近藤、さん」
ぢゃああァァァんんッ……!!」
「あの……えっと……近いです」
ぢゃああァァァん、ごめんよォ!! 俺が無理矢理連れてったからァァァ!」
「聞いてます? ねェ、私の話聞いてます?」


もう、顔中が歪んで皺だらけで、涙も鼻水も全部混じったような凄まじい形相で謝ってくる近藤さんに、私は身動き1つ取れずにツッコんだ。
よくよく辺りに気を配って見てみると、近藤さん以外にも人の気配がして、もぞもぞ手足の先だけ動かした私は自分が布団に寝かされていることに気付く。


「―――近藤さん、邪魔ですぜ」
「そうですよ、局長。ちゃんが怖がってますから」


不意に聞き慣れた声がしたかと思うと、目の前から近藤さんの顔がふっと消え去って、総悟君と退君の顔がひょっこりと視界に入ってくる。
その顔は、声色と反してひどく心配そうで。
私は少し、首を傾げた。


ちゃん、大丈夫? どっか気分悪かったりしない?」
「……え? あ、うん。大丈夫だけど……ここは?」
「真選組の屯所でさァ」


総悟君の言葉に、私は、あー、と曖昧に声を漏らした。
そして、今日の出来事を懸命に思い出そうと、頭を捻る。

確か、今日は朝から真選組の屯所に来て、女中さんのお手伝いにまわって。
そしたら、突然土方さんに連れられて、近藤さんに隊服を渡されて。
人手不足だからと、警備の仲間入りをさせられて…。

そうだ。

そこに蛙がいて、それを護らなきゃいけなくて。
近藤さんが、撃たれそうになって―――。

ぼんやりとした頭でそこまで考えて、やっと思い出した私。


「私……撃たれた、んだっけ……」


小さく、総悟君と退君の顔の後ろに見える天井を見つめながら呟くと、2つの顔がひどく歪んだ。
私はハッとして、慌てて横たえていた上体を起こした。
撃たれたらしい左肩にはまだ痛みがあるけれど、手当てしてくれたおかげか大分楽だ。


「ちょっ、ちゃん! 無理しないで―――」
「大丈夫。……怪我の大きさくらいなら、私でも分かるから」
「……」


近藤さんの後ろにいた蛙官僚を狙った銃弾は、それをかばった近藤さんを更に庇うという行動に出てしまった私の肩を、抉るように貫いていった為に軌道が変化し、近藤さんや蛙官僚は無傷だったらしい。
ほぼ肩を貫通した状態だった為に派手に出血したようだが、大事には至らなかったと。

私は自然と、包帯で固定された左肩に手を伸ばした。
着ている服が先程までの隊服じゃないことに気が付いて、私は少し申し訳ない気持ちになる。
枕元を見ると、私の着流しと服が丁寧にたたんで置いてあった。

手当てして、着替えと看病までさせて。
傍迷惑もいいところな私を、真選組まで運んできてくれたのだ―――この人達は。


「……ごめんね」
「! ……ちゃん……?」


左肩を撫でながら口から洩れるのは、謝罪の言葉。


「私、ただのお手伝いのはずだったなのに……近藤さんや土方さんや、総悟君達にまで、勝手なことして迷惑かけて……」
「そ、そんなことっ……元はと言えば俺達が頼んで―――」

「許さねェ」

「!」
「ちょっ、沖田隊長?」


私が少し俯き加減に話していると、不意に、退君の慰めるような言葉を総悟君が遮った。
いつもの声色とは違う、低い怒りの混じった声に、思わず肩をビクリと震わせて、私は顔を上げる。


「許さねェよ、俺ァ。そう簡単に謝って済む問題だと思ってんのかイ?」
「総悟く―――」
「俺達の目の前で倒れるような、自分から死にに行くような、そんな真似だけはすんじゃねーよ。アンタは……自分がどれだけの人間に慕われてんのか、分かってねェ」


総悟君はそう言いながら、私の目の前に腰を下す。
私はただ何も言えぬまま、総悟君の言葉の意を探っていた。


の性格からして『無理すんな』ってェのァ無理な話だろーが―――せめて、自分の命捨てるような馬鹿な事だけは、しねーでくれィ」


そう言った総悟君の顔は、いつもの無表情で掴めない表情じゃなくて。
眉を寄せて、心底私の身を案じてくれているような悲愴な表情だった。

それでも真っ直ぐ私を見てくる瞳が綺麗で、申し訳なくて。
私は視線を少しだけ、下へ逸らした。


「―――まあ、総悟。そう心配するな。ちゃんも分かってくれてるさ」
「! 近藤さん……」


そんな気まずい空気を割って入ってきたのは、近藤さんだった。
近藤さんはいつもの人好きのする笑顔で言うと、私を見る。


「本当、ちゃんには悪いことしたよ。嫌な思いまでさせた挙句に、怪我までさせるつもりはなかったんだが……」
「い、いえ! あれは私が……」
「いいんだよ。今はとりあえず、ちゃんが無事なら。なァ? トシ」
「……え?」


近藤さんの言葉に思わず顔を上げて辺りを見渡すと、いつの間にか来ていたらしい土方さんが、相変わらずの銜え煙草で部屋の入口に立っていた。
私が慌てて何か話しかけようとしていると、不意に、目の前に腰を下している総悟君が、私と同じように土方さんを見上げて言う。


「なんでェ土方さん、今頃出てきたんですかイ? 話はとっくに終わりやしたぜ」
「……ああ、そうみてーだな」


何だか、いつもと雰囲気の違う土方さん。
そんな土方さんに目を向けていると、土方さんは私の寝ていた布団のすぐ横まで歩いてきた。

その表情は、さっきの総悟君と、同じような気がした。


「……すまなかった」
「……へ?」
「今回の事ァ、全て俺の責任だ。一緒に居ろと言っておきながら目を離した俺が悪かった」


何故。

何故、この人達は皆して、頭を下げてくるのだろう?
私はちっとも、そんなこと思ってはいないのに。


「狙撃してきた攘夷浪士共は、全員俺達でひっ捕まえた。それに―――あの蛙顔の幕府官僚も、ただじゃ済まねェと思うからよ」


まるで「安心しろ」とでも言うかのように、土方さんが私の頭をポンポンと軽く叩く。
それに呆気に取られた私は目を丸くした後、嬉しさがこみ上げて来て思わず笑った。




『馬鹿な娘だ―――盾の猿の“盾”になるとは』




あの蛙官僚の言葉に、その場で言い返せなかった私。
きっと、土方さんはそれを気にしていると思って、私に報告してくれたのだろう。

確かに、あの時感じたのは、痛みと同じくらいの悔しさだったから。


「まあ、幕府が何もしなくても、総悟の野郎が何かしでかしてたかもしれねーしな」


その証拠に、「おめェが倒れた後、コイツ止めるの大変だった」と嘆く土方さんの顔が、どこか照れ臭そうだった。


「何に気安く触ってんですか、土方さん。セクハラですぜ」
「はあ? ……バッ……! そんなんじゃねェェ!!」
「ならいつまで手ェ置いとく気ですかイ。さっさとその手離せよ、土方コノヤロー」
「総悟ォォ、てめェェェェ!!」


いつの間にか、総悟君とそのけしかけに乗った土方さんが乱闘を始める
それがいつもの真選組の風景で、私はホッとした。

私の為に色々と、思い詰めてくれる優しい人達。
とても、幕府の為にと己の手を血で染めているような人達とは思えないほど、温かい人達。

確かに、私も素人のくせに無茶なことをしてしまったけれど。
私を含めた江戸市民や幕府の人間を、無条件と言っていいほど寛大に護り通してくれる真選組を、護りたいと思った私の気持ちは嘘ではない。

やはり、この人達を少しでも護れるのならば、ああしたことを私は後悔しない。
―――まあ、だからといって決して、死ぬつもりなどないのだけれど。


「近藤さん」
「ん?」
「退君」
「はい?」
「総悟君」
「! ……何ですかイ?」
「……土方さん」
「……おう」


それぞれの目が、一斉に私へと向けられる。
私は出来る限りの笑顔を浮かべて、4人に向かって言う。


「助けてくれて―――あの場所へ連れて行ってくれて、ありがとうございました」


驚いたのか、呆気に取られたのか、4人はそう言う私を見て目を見開いたまま、身動き1つせずに固まった。
しかし、私は気にすることなくそのまま続ける。


「今回のおかげで、分かったことがあるんです」


先日の“春雨”の時でも、今回の警備でも。
私の周りにはいつも、私を想ってくれる人達がいて、護ってくれる人達がいて。
そんな人達を護ることで、私はその気持ちを返そうと思っている。


「この傷も、私にとっては経験の1つになったと思います。蛙官僚なんかよりも、近藤さんが撃たれそうだと思ったら、勝手に身体が動いてた。あんなことをしたのは、生まれて初めてで……―――」


死んじゃうのかな。


「咄嗟に自分がしたこととはいえ、撃たれたら怖かったし……嫌なこと、考えたりもしたけど」


そんな考えよりも先に、死なせたくないという考えが頭の中を占拠して。
“恐怖”なんて、飛び越えて。


「だから、私は“この世界”にいれば、少しずつだけど……成長していける、気がする」


それは、剣の腕だったり。
体力だったり。


「万事屋の3人やお登勢さん達、真選組の皆さんみたいな……優しくて温かい人達といれば―――知らずに、強くなれる」


想いすら、強く成長していける。
そんな気がする。




『いつか想えるようになるといいなァ、。全身全霊で、応えられるように』




いつだったか父さんが言っていた言葉の意味が、ようやく理解出来た気がするよ。


「だから私、これからも真選組に来ますから……また、お仕事手伝わせて下さいね」


そう言った私に、4人はただただ呆気に取られたように固まっているだけだった。





***************





「万事屋の3人やお登勢さん達、真選組の皆さんみたいな……優しくて温かい人達といれば―――知らずに、強くなれる」


の、あんな力強い瞳を見たのは、出逢ってから初めてではないだろうか。

いつもは、俺に負けじと眠たそうな、やる気のなさそうな顔付きの
ボーッとしていることが多いけれど、それでいてしっかりしていて、テキパキと家事をこなす

そんなが―――“普通の少女”であるとばかり思っていたが、強くなることにあれだけ固執していることを、俺は知らなかった。


「だから私、これからも真選組に来ますから……また、お仕事手伝わせて下さいね」


普段ならば来たくもない真選組の屯所に到着してからそこら辺を歩いていた隊士に案内された部屋の入り口で、俺はそう言いながら笑うに見惚れて固まっている男4人を見つける。

あーあー、あんな嬉しそうな顔しやがって。
お前の笑顔は心臓に悪ィんだぞ、

普段気の抜けた表情をキープしているは、笑うと雰囲気が一変する。
いつもは、落ち着いていて俺達まで絆される様な温かい雰囲気のだが、笑うと年相応に無邪気に見えて。
それでいて、綺麗で。


―――目が、離せなくなる。


「……あれ、旦那じゃねーですかィ」
「!」


そんなの雰囲気に俺まで呑まれかけていた時、我に返ったらしい沖田とかいうドS王子が入口に佇む俺に気付いた。
それに続くように他の3人も我に返って俺を振り返る中、1人、肩をビクリと震わせてこちらを見ようとしてこない。

どうやら……怒られるって自覚は、あるみてェだな。


「何で万事屋の旦那がここに?」
「あー……そこの副長さんから電話もらったんだよねー」
「ああ! だから副長、ここに来るの遅かったんですね」


気だるげにいつもの調子で応えてから、ゆっくりとした足取りでが座る布団へ近付く。
は相変わらず、俺の方を見ない。


「じゃ、うるせェのが来る前に、とっとと連れて退散させてもらいますかねェ」


『うるせェの』とは言わずもがな、神楽と新八のことだ。
新八は何もしないだろうが、神楽が大暴れすることは目に見えている。

まあ、そんなことはどうでもいいとして。
俺はの傍らにいる土方を退かして、隣にしゃがみ込む。
着物から垣間見える包帯はどこか痛々しげで、はあからさまに顔を明後日の方へ向けて真っ青な顔をしていた。


「―――……
「はっ、はい……!」


静まり返った部屋の中、出来るだけ低く名前を呼ぶと、は声を裏返して返事をした。
最近のこいつは、もうすっかり出逢った当初の面影が無くなりつつあるような気がする。

まあ、可愛いからいいけど。


「めちゃくちゃ焦ったんだけど、俺」
「……は、はい……」
「驚き過ぎて、すっ飛んできちゃったんだけど、銀さん」
「う、ん……」


別に責めているわけじゃないが、俺がどれだけ心配したのかを素早く、尚且つ簡潔に伝えてみる。
すると、はそっぽ向いていた顔を正面に戻して、小さく俯いた。

その横顔は、心底申し訳なさそうに歪んでいて。
一度くらい怒鳴ってやろうかと思っていた俺の心境は、簡単に変わってしまった。


「……ま、大した怪我じゃねーみてェだし……―――無事で良かったよ」
「! ……ごめんなさい、銀さん」
「ん」


ポンと手を置いたの頭は小さくて、少し寝乱れた髪を梳き直すように撫でたら、照れくさそうに謝ってきた。

が何を考えているのか、何を思っているのか。
そんなことァ、どうでもよくなった。
がいつもみてェにボーッとして、穏やかに笑えてりゃ、今はそれでいいや。

まあでも、心配かけた分くらい、払ってもらわねェとな。


「? 銀さ―――ぅひゃあっ!?」
「なッ……! てめェ、万事屋!!」


怒鳴りはしないものの最終的にそう思い立った俺は、ニヤリと笑っての肩と膝の下に腕を回す。
勿論、怪我を気遣いながら、そっと。

そのままの身体を自分の胸元に引き寄せて立ち上がると、突然抱き上げられたは驚いたように素っ頓狂な声を上げ、沖田の顔が一瞬歪み、土方の瞳孔がいつもの倍以上開いた。


「んじゃ、けーるぞー、
「ちょっ、まっ……銀さん、降ろして! 自分で歩けるから……ッ!」
「ん? いーのいーの。怪我人はツベコベ言わずに、銀さんにドンと任せなさーい」
「ちょっと!?」


俺がその場に立ち上がると、何とも言えない浮遊感が嫌なのか、が騒ぎ出す。
俺の腕の中で横抱き(所謂お姫様抱っこ)にされている状況が恥ずかしいのか、はたまた見物人の多さからか。
どちらにしろ、恥ずかしがって暴れるの顔は珍しく真っ赤だった(何か今日すげー可愛いなオイ)。


「つーことで、連絡ありがとね。ひーじかーたくーん」
「てめェ、何ふざけた真似を……斬られてェのか、ああ!?」
「はいはい、また今度ね」


今にも抜刀しそうな土方を軽くあしらって、俺はを抱えたまま部屋を出ようと踵を返す。
すると、そこに立っていたのはドS王子―――もとい、沖田君。


「……何? 沖田君。俺らもう帰―――」

「え、無視?」


見事なまでに俺の言葉を遮り、あまつさえ無視を決め込んだ沖田。(コイツ殴り飛ばしたい)
沖田は俺の目の前までやってきて、腕の中にいるに声をかける。
はいつもよりも幾分高い目線から訝しげに沖田を見て、小さく首を傾げた。


「今日はうちの大将護ってくれて、ありがとうごぜェやした」
「え? 総悟く―――」


嫌味なくらい、ニッコリと爽やかに微笑んで言う沖田にがキョトンとしていた、その瞬間。




ちゅっ。




「―――……え」
「な……ッ!」
「じゃ、お大事にねィ」


あろうことか、このクソガキ。
に―――キス、しやがった。(頬にだけど)

あまりの出来事と行動の早さに呆気に取られてしまったのは、だけではなくて。
を抱えていた俺も、その後ろにいた土方も、ゴリラも、山崎とかいう地味助(面倒だからジミー)も、あんぐりと口を開けて、沖田を見る。


「…………―――ッ!!」


しばし硬直していたが状況をようやく理解して、今までにないほど顔を紅くさせた。
そりゃあ、もう、ボッ!って火がつく音がしそうなくらい。

……おい、ちょっ、待てよ。
待てって、だって……え?


「お、おおおおお沖田くゥゥゥん!!? 君、何してくれちゃってんのォォォォ!!」
「総悟てめェェェェ!! そこになおれ、コノヤロォォォ!!」
「た、隊長ッ! なんてこと……!!」
「総悟ォォォ!! そういうことは屯所の中でやっちゃ駄目でしょうがァァァ!!」


我に返った俺が叫ぶのを皮切りに、他の3人も悲痛な叫びを上げ始める。(ゴリラは論外)

つーか、土方と沖田だけじゃなくてジミーもかよォ!?

そんな、騒ぐ俺達を見やった沖田は、不敵に口元に笑みを浮かべて言う。


「どーせなら、唇にした方が良かったですかねェ」


―――宣戦布告。
この瞬間ほど、俺はコイツに対して殺意を覚えたことはなかった。








握り潰される、心臓。

(色んな意味で、身がもたない!)









アトガキ。


*怪我を経て自分の可能性を少しずつだが感じ始めるヒロインと、そんなヒロインをそれぞれに気遣う男性陣。

*シリアスに始まりギャグで終わる。銀魂だからこそできる荒技に挑戦してみました。
 今回はちょっと、逆ハーっぽくできたんじゃないかな、と思います。満足です(自己満足)
 
 攘夷浪士達が押し寄せてくる場面は端折りましたが、原作と同じ感じだと思って下さい。
 近藤さんは撃たれちゃいませんが、ヒロインが自分を庇ったことにより責任を感じて、ずっとヒロインの傍らでしょげていました。
 今回、話の中でヒロインは「”この世界”」と発言していますが、恐らく無意識です。でも、多分今の時点では近藤さん達もそんなに深くは考えていない。



*章タイトル『Grow up』→→意:成長する。大人になる。ヒロインが自覚したもの。




*2010年10月30日 加筆修正・再UP。