呉牛、月に喘ぐ。   03




「―――……?」
「! ……あ、おはよう、銀さん」


近々催されるらしい、江戸の将軍様もいらっしゃるという大きな夏祭り。

そんな夏祭りまであと1日、つまり明日を本番に控えた日の昼前、これから出かけようと万事屋の玄関で靴を履いていた私の背後から、若干掠れた低い声が届く。
私が靴を履き終えてから身体を捻って後ろを振り返ると、そこには寝起きの銀さんが不思議そうに首を傾げて立っていた。

いつものやる気のない眼が更に眠たげに細められていて、それを手で擦る銀さんに向かって挨拶をすると、銀さんはのそのそとこちらに歩み寄ってくる。


「起しちゃった? ごめんね。……もう昼近くだけど」
「いや、別にいいけどよ……早ェな。バアさんの店行くのか?」
「ううん―――平賀さんのとこ、行こうと思って」
「……あのジジイんとこに?」


私のすぐ後ろで立ち止まった銀さんは、私が抱えている風呂敷に包んだものを目に止めて言った。

風呂敷の中身は、お登勢さんから借りた小さな重箱だ。
その中身は、朝早くに起きて色々と用意した弁当である。

河川敷で1人、早朝からカラクリを組み立てているだろう平賀さんへのちょっとした差し入れとして、私が作ったものだ。
若干余計なお世話になってしまうかもしれないけれど、少なくとも銀さん達のおかげ(せい)で仕事が増えていることは否めないので、これくらいはしてあげようと考えたわけなのだが。


「ジイさんに昼飯の差し入れってか」
「まあ……そんなとこ。ついでに、何か手伝えることあったら手伝ってこようかと思って」


よいしょ、とその場に立ち上がって、くるりと身体を反転させ、銀さんを見る。
すると、銀さんは何だか腑に落ちないような不機嫌そうな顔をして、私をじっと見下ろしてきた。

私はそれに小さく首を傾げて返すと、ふと思いついて口を開く。


「そんなに拗ねなくても、銀さん達のご飯ならちゃんと用意してあるよ?」
「うん、銀さん子供じゃないからそういうことで拗ねたりしないからね、チャン。つーか別に拗ねてねェし」
「?」


俺を幾つだと思ってんですかー。

そんなことを言いながら、明らかに拗ねているとしか思えないように口を尖らす銀さんに、じゃあ何でそんな顔をしているんだ、という意を込めて訝しげに眉を寄せて見せ、さらに首を傾ける私。
すると、銀さんはいつものように、面倒臭げに頭の後ろをガシガシと掻いた。


「どーせ俺らも後で行くんだし、一緒に行きゃいいじゃねーか」
「そうだけど……この前からずっと気になっちゃってて。昨日は私手伝えなかったし、先に行って手伝ってるよ。銀さんは神楽ちゃんがまだ寝てると思うから、神楽ちゃんとご飯食べてからゆっくり来てよ」
「……」


ね? と半ば念を押すような形で言うと、銀さんはいまいち納得のいかないような表情を浮かべながらも、分かったと頷いてくれた。
何をそんなに不満がっているのかは分からないが。


「じゃあ、いってきまーす」
「おー」


銀さんとのそんなやりとりを終え、銀さんの気のない返事を最後に、私は重箱を抱えて河川敷へと向かうのだった。






町の中は建築物が詰まっている為か暑苦しい熱気が籠っているのだが、川に近付くにつれてその熱気も薄れ、水辺独特の涼しさが肌をくすぐる。

そんな、心地良いせせらぎを感じながら川に沿って歩いて行くと、河川敷から聞こえる機械音。
そちらに目を向けると、ゴロゴロとしたカラクリ達の中に見える、小さなお爺さんの背中があった。


「―――平賀さん」
「!」


カラクリの前で忙しなく手を動かすその人の後ろで足を止めた私は、作業をする手元を覗き込むようにしてその人―――平賀源外さんに声をかけた。
自分を呼ぶ声に後ろを振り返った平賀さんは、私の顔をゴーグル越しに見る。


「何だ、嬢ちゃんか」
「こんにちは」
「おう、ご苦労さん」


初めて会ったあの日に私が銀さん達と共にいたことを覚えていたらしい平賀さんは、私がここへ手伝いにやってきたことは何となく察している様子。
私の呼びかけに応える為に止めていた作業を再開しながら、平賀さんは私に言う。


「今日はあの騒がしい連中は一緒じゃねーのか?」
「私だけ先に来たんです。平賀さん、ほとんど休みなく作業してるって聞いたんで……ちょうどお昼時だし、昼食でもどうかなって」
「飯? ……そーいや、今日はまだ何も食ってねーなァ……」


そう言いながらも、平賀さんの手は淀みなく動き続ける。
私はその様子を暫しジーッと見つめていたが、「腹減ったな」と小さく平賀さんが呟いたのを聞き取り、手に持っていた風呂敷を平賀さんの前に差し出した。


「何だそりゃあ?」
「お弁当です。お登勢さんに借りてきました」
「…………お登勢が作ったのか?」
「あー、言い方が悪かったですかね。重箱をお登勢さんに借りて、私が作ってきました。けど……お登勢さんの手作りがよかったですか?」
「いや、嬢ちゃんのでいい」


お登勢が俺に作った弁当なんて、猛毒入りに決まってらァ。

そんなことを言いながら風呂敷を見ていた平賀さんに「じゃあ食べましょうか」と言うと、私は弁当箱を包む風呂敷を広げる。

しかし、そこでふと気付く。
河川敷は石がゴロゴロとしていて、とてもゆっくりと昼食を取れるような環境ではない。
数メートルほど川から離れると、芝生が川に沿って生い茂っているので、そちらに行こうと平賀さんを促した。


「……おっ、握り飯か。気が効くな」
「いえ。外で食べるにはおにぎりの方が良いかなって思ったんです。好みが分からなかったんでおかずは少なめにして来たんですけど……適当につまんで下さい」
「おう」


もそもそと平賀さんが握り飯を頬張り始めたのを横目に見た後、私は何となく河川敷へと目を向ける。

そこには、まだ動くことのないカラクリ達の欠片。
何だかここ数日ですっかり見慣れてしまった、何とも厳つい身体を持つそのカラクリ達の顔を見て、私はふと辺りを見渡した。

いつも平賀さんの隣にいる、あのカラクリの姿がない。

そんな私に気付いた平賀さんは、キョロキョロと辺りを逡巡する様子を見て「ああ…」と思い立ったように声を漏らして言う。


「三郎か?」
「え? ……あ、はい。今日はいないのかなって……」


あのカラクリ―――三郎さんの姿を一通り捜したものの見つからず、私の捜し人(ロボット?)の名を零した平賀さんに首を傾げて見せると、何気なく答えが返ってきた。


「すぐ戻ってくる。嬢ちゃんが来る前に喉が乾いちまって、買い出し頼んだんだ」
「へぇ……凄い凄いとは思ってたけど、買い出しとかも出来るんですか」
「まあな。俺が作ったカラクリだ。それくれー訳ねェさ」


自販機だがな、と続ける平賀さんに思わず笑っていると、少し遠くの方から、聞いたことのある機械音が耳に届いた。
ガシャーン、ガシャーン、と、何とも分かりやすいその機械音―――否、足音に振り返ると、視線の先にいたのは、大きな筒状の身体を持った、自分の意志で動くカラクリ。


「おー、三郎。ご苦労さん」


機械のゴツゴツとした両手に握られていたのは、自販機で買ったらしいお茶のペットボトル。
45本抱えているところを見ると、まだここで作業をする為の水分補給用なのだろう。

平賀さんは弁当のおかずを摘まみながら、隣へ歩み寄ってきた三郎さんから飲み物を受け取って礼を零した。


「ほらよ」
「……はい?」


無造作に生える雑草の上に置かれたお茶の中から1本を取り上げて、平賀さんが私の前に差し出してきた。
突然のことに思わず目をパチクリさせていると、平賀さんはじれったそうに口を開く。


「やるよ。昼飯のちょっとした礼だ」
「え……いいんですか?」
「俺がいいってんだからいいんだよ。気になるなら三郎にでも聞け」
「聞け、と言われましても……」


もしゃもしゃと咀嚼を繰り返し、鼻の下に生えた髭にご飯粒をつけている平賀さんにそう言われ、思わず平賀さんを挟んで反対側に立っている三郎さんを見上げる。

初めてこの2人(1人と1台?)に逢ったあの日、確か平賀さんは「三郎はある程度の言語は理解出来る」と言っていた。
確かに平賀さんとのやり取りを見る限りでは普通の人間と大差はないのだが、あまり私がうだうだと言ったところで、三郎さんも理解しづらいだろう。


「……ありがとう、三郎さん、平賀さん」
「御意」
「……おう」


とりあえず御礼だけ言って、平賀さんが目の前に置いてくれたお茶を手に取った。


私の作ってきた拙い昼食でたらふく腹を膨らませることが出来たらしい平賀さんは、食べ終わって早々作業へと戻っていった。
私はとりあえず広げっぱなしの弁当箱を風呂敷に包み直すと、それを手に、河川敷で作業をする平賀さんの隣へと移動する。

私も何か手伝おうかと言ったのだが、私みたいな娘にこんなに複雑な機械など弄れるわけもないので、平賀さんに工具を渡したり指示されたものを取り出して手渡したりと、隣でひたすらそんな作業をしていた。


「嬢ちゃんは、寂しかねェのか?」


そんな時、平賀さんが突然、何の脈絡もなくそう尋ねてきた。

いきなりの質問に驚いて目を丸くして平賀さんの方を見るが、平賀さんの視線は作業をする手元をジッと見つめていて、手の動きにも淀みはない。
何となくで訊ねてきたのだろうかと、「どうしてですか?」と訊き返すと、平賀さんは何ともないように言う。


「嬢ちゃんぐれーの年頃の娘があんな訳分かんねェフラフラした野郎共とつるんでるなんて珍しいだろ。実の家族とは離れてるようだからよ。あの銀髪の嫁って訳じゃねェみてーだし……。妙に礼儀正しかったり落ち着いてたりするとこみると、田舎者にゃあ見えねェが……出稼ぎか何かか?」
「……」


私が礼儀正しいのか落ち着いているのかはともかく。
銀さん達万事屋メンバーと私みたいな者が一緒にいることが、どうやら平賀さんの中では珍しい事らしい。

確かに、自分自身、今まであまり絡んだことのないタイプの人達ではあるな、と感じながらも、応える。


「私は……お登勢さんに拾われたんです」
「拾われた?」
「はい」


何だか、自分がここにいる経緯を話すのは、ひどく久しぶりな気がする。
最近は何かと忙しくしていたから、忘れてしまっていたのかもしれない。




自分が―――異世界の人間であることを。




「よく憶えてないんですけど、気が付いたらお登勢さんのお店にいて…。すぐには帰れないところまで来てしまって、お登勢さん達に事情を話したら住み込みで働かせてくれることになって」
「何だオメー、お登勢んとこの従業員だったのか」
「まあ、はじめは。拾われてから、自然と銀さん達とも知り合って……暇な時とかに万事屋を手伝ってるうちに、何故か銀さんの秘書になっちゃったんです」


苦笑してそう言う私に、平賀さんは「苦労してんだな」と小さく零した。
それが“家族と離れている私”に対してなのか、“銀さんの秘書にさせられてしまった私”に対して言っているのかは、分からなかったが。


「……で、娘1人で江戸まで来て、家族は心配してねェのか?」
「―――……さあ、どうかな……」


平賀さんの言葉に、少し考える。

父さんと君は、きっと必死になって捜してくれているに違いない。
こちらの世界とあちらの世界の時間軸が同じとは限らないが、少なくとも私がいなくなってひと月以上は確実に経過しているのではないだろうか。

もしかしたら、警察まで巻き込んだ大事になってしまっているかもしれない。

警察の人の胸倉を掴んでワタワタしている様子を思い浮かべて、本当は笑ってはいけないはずなのに、何故か笑みが零れた。


「家で待つ父と……兄がいます。兄はすごく心配性で父は親馬鹿で、2人とも過保護すぎるくらい過保護なんですよ。帰った途端に怒られるかもしれないなァ……。『こんなに長い間どこ行ってたんだー!』って」
「なんだ。黙って出てきちまったのか?」
「ええ、まあ……そんな感じかもです」


そう。
きっと、今までにないくらい怒ってくれて。
父さんなんて、涙流しながら叱ってくれるんじゃないかな。

そして、久々に3人で、母さんに会いに行くんだ。


「……あんまり訊かねェ方がいいのかもしんねーが……―――母親はどーした?」


どこか懐かしそうにしている私が気になったのか、平賀さんは作業をしていた手を止めて、チラリと私の方へ顔を向けた。
その後ろには、ぬっと三郎さんが立っていて、まるで私の話を一緒になって聞いているかのようだった。


「……気になります?」
「……話づれーなら話す必要はねェよ」
「はは、そんなことないですよ。大丈夫。いないわけではない……ですから」


何となく平賀さんの顔を見ていられなくて、視線を川へと向けて、私は続ける。


「でも、逢ってないうちにいなくなってしまったら、それこそ親不幸ですけどね。……入院、してるんですけど……」
「病気か何かか?」


そう訊かれて、思わず一旦口を閉じた。

こんな話を、最近知り合ったばかりの人に話してもいいものだろうか。
銀さん達にも、お登勢さんにすら話していないことだ。
でも、この世界に来てから、そういった“弱み”を話せていないのも事実で、私は「まあいいか」と考えて、話す。


「確かに身体は昔から弱かったんですけど……今入院している理由は、事故です」
「……事故?」
「はい。……えと、車に……」


気付いた時にはもう、手遅れだった。

まるで人形のように、目の前で宙を舞う母の身体。
母はその瞬間から一度も、1日たりとも目を開けることなく、昏々と眠り続けている。


「外傷は奇跡的に酷くなかったんです。でも、頭を打ったのか、その影響で寝たきりで。……毎日のようにお見舞いに行っては話しかけたりしてて……でも、声は返ってこなくて」


そこまで言って、私は顔を歪めた。

あの時のことを思い出そうとすると、いつも気分が悪くなる。
私は、あの時―――。


「で、その母親の見舞いにゃ行ってんのか?」
「! ……本当、親不幸なんですよ、私。こんな遠くまで来ちゃって…」


平賀さんの言葉に、私は苦笑を返す。
そんな私の顔を見て、平賀さんは察してくれたらしく「そうか」と小さく零した。

お見舞いにすらいけない、この状況。
本当に、親不幸以外の何物でもない。

それでも、いつか。
まだ生きていると信じて、いつか。


「前みたいに家族4人で、過ごせたらいいな……って」


そこまで話して、辺りに沈黙が走る。
平賀さんの手も止まったままで、何だか辛気臭い空気になってしまった為、私は慌てて平賀さんに言う。


「まあ、私の話はいいですって。平賀さんは気にせず、作業進めて下さい」
「……そうか」


私のその言葉を合図に、平賀さんは作業を再開し始めた。

川のせせらぎに混ざった、機械を弄る音。
家族の話をした後に聞くその音は、何だか物悲しげに聞こえた。


「―――平賀さんは、寂しいですか?」
「!」


小さく縮こまって作業をする平賀さんの背を見て、思わず訪ねてしまった。
ピタリと動きを止めた目の前の老体を見て、まずい、と思うが、最早口から出てしまったことは引っ込めることが出来ないので、仕方なしにそのまま平賀さんの返答を待った。

ただ、少し考えて後悔はした。




『アンタの息子、確か幕府に……―――』




お登勢さんと平賀さんの言葉少ないあの時の会話。
あれを思い出してみると、自分の言葉がどれだけ軽率だったのかよく分かる。

この人は、私とは違うのに。
失くしたくないと思っていた最愛の息子を、幕府の手によって奪われて。

寂しくないわけ、ないのに。


「ご、ごめんなさい、私―――」


ずっと声を発さぬままじっと動きを止めている平賀さんに、私は居た堪れなくなって思わず声をかける。
私みたいな無関係な人間が、踏み込むべきではない平賀さんの内心に踏み込もうとしてしまったことを謝ろうと口を開いた時、私の声を遮るように平賀さんが静かに口を開いた。


「俺ァ、寂しかねェさ」
「!」
「こんな歳になっちまうとなァ、嬢ちゃん……そんなこたァ考えねェんだよ」


薄暗く塗られたゴーグルの下、真っ直ぐな平賀さんの目が歪む。


「ただし、だからって何とも思っちゃいねェわけじゃねーんだ」
「……」
「あの時の後悔に押し潰されそうでよォ……」


平賀さんの本音を、見た気がする。




「ただ―――苦しいんだ」




重い、言葉だった。


私がそう感じた様に、平賀さん自身も、その場の空気すらもそう汲み取ったのだろうか。
公道の方から、私を呼ぶ神楽ちゃんの声と相変わらず不機嫌そうな銀さんとそれを見て苦笑する新八君の姿が見えるまで、私はただただ黙り続けることしか出来なかった。


「……平賀さん」


万事屋3人がこちらへ向かって歩いてくる中、私はそれをボーッと見つめながら口を開く。
平賀さんから返事はなくて、ただ、嫌がっている様子もないので、そのまま話すことにした。


「親が思っているほど、子供って親を恨んだり憎んだり出来ないんですよ」
「! ……何だァ、いきなり」
「図々しいかもしれないし、私の勝手な解釈かもしれないけど……分かるんです、私には」


親は、子が想っている以上に子を想っていて。
でも、子もそれに負けないくらい、親を想っている。

そして、子はどんなに親から離れようと、親を蔑むことはないのだ。
どんなに口先では憎んでいても、心のどこかでは絶対に、親を考えている。

濃い繋がりが、縁があれば、特に。

銀さん達を迎え入れる為に、私はその場に立ち上がる。


「だから、平賀さんが思っているほど、息子さん―――三郎さんは……悔やんだり悲しんだり、してないんじゃない、かな。何十億といる人間の中で、唯一繋がれた親子なんですし……」




そう思った方が、嬉しいじゃないですか。




そう続けて、ヘラリと笑って見せた。
少し誤魔化したように見える私の笑みを、平賀さんは何だか呆然とした顔で見上げてきたけれど。


「平賀さんの息子さんのことは、よく知りませんけど……そこの三郎さんも、そうなんじゃないかなーって思います。平賀さんと親子ですもんね、三郎さん」
「御意」
「……ハッ、まだ何も知らねェ小娘が、何一丁前なことを……」


三郎さんは無意識なのか反射的になのか、私の言葉に同意してくれる。
すると、憎まれ口を返しながらも平賀さんは、笑ってくれたように見えた。


ー、お待たせヨー!」
「神楽ちゃん、ちゃんもだけど……お待たせしたのは平賀さんの方だよ」
「黙れヨ新八。そんなことは分かってるネ」


不意に、ポスンと後ろから誰かにぶつかられる様な衝撃が走ったかと思うと、神楽ちゃんが私の背にピッタリとくっついたまま、新八君と言い争っていた。
その後ろから、ゆっくりとだるそうな足取りで銀さんが歩み寄ってきて、いつもの騒がしい雰囲気になる。


「悪ィな、。ちっと遅れちまった」
「大丈夫。平賀さんと仲良くお喋りしてたから」
「あ? ……まあいいや。神楽の奴が昼飯馬鹿食いしやがってよォ……」
「何言うか! 銀ちゃんがに置いてかれたからって不貞寝してたからアル!」
「てめっ、何言いつけてんだコラぁぁぁ!!」


いつものように(銀さんだけ命がけの)じゃれ合いを始めた銀さん達。
私は平賀さんを背にして、新八君と共に、銀さんと神楽ちゃんの喧嘩の仲裁に入った。






「……嬢ちゃんみてーに考えてりゃ、俺もこんなんなるこたァ、なかったのにな」


平賀さんが組み立てる機械の音と銀さん達の喧騒の声で、私は平賀さんのそんな言葉を聞き取ることが出来なかった。








知っていますか。

(親子の絆の、美しさ)









アトガキ。


*平賀さんとヒロインの、家族についての会話。
 
*はい、兼ねてよりちょこちょこ出てきていましたヒロインのお母さんは、事故に遭い、入院中なのでした。具体的な原因とかは、また今度の機会にと思っていますが、ヒロインの様子から何となく察しはつくかと思われます。
 頭を強く打ったことで脳に影響が出てしまい、事故に遭ってからずっと意識不明……いわゆる植物状態?みたいな感じです。
 銀魂のヒロインは、”家族”に少しばかり強い想いを持っているので、それをより深くするために、こういう手段を取らせて頂きました。これで1つ、ヒロインの家族について書けました。……ほんの一部ですが。

 

 平賀さんが若干偽物くさいですが、確かあの人は爺さんらしい喋り方(〜じゃのう、とか)をしなかったように思うので、銀さんと被りそうで怖いです。
 前回の話で銀さんとヒロインの絡みが少なかったので、今回ちょこちょこと増やしてみましたが、微妙。でも、こういうオリジナル書くのは楽しいです。

 ヒロインと平賀さんには、何となくこれからおじいちゃんと孫的な関係になってほしいなーと思っています。
 
 
では、次回はまた原作へ戻って、いよいよお祭り当日です。




*2010年11月1日 加筆修正・再UP。