SUMMER TIME HOLIDAY!   02




神楽ちゃんと2人で何となく笑い合った後、荷物を抱えて浜辺へと足を進める。
海の家から一歩出たところで、曝け出された脚に潮の涼しげな風が当たって、何だかくすぐったかった。

普段履いている草履を脱いできた為、素足で熱の篭った砂浜を歩いて行くと、先程と変わらず定春は砂風呂状態で埋まっていて。
そこから少し離れた所にいたのは―――先程銀さん達に見事なまでに無視されてしまっていた、長谷川さんの姿があった。


「……お嬢ちゃん、分かるか、俺の気持ち」
「いいな〜、皆泳げて」
「……そーだね」


そんなどこか寂しげにそう言った長谷川さんの横に、傘を差す神楽ちゃんが並ぶ。
完全に長谷川さんの言葉は無視されていた。

2人して非難がましい目で、浮き輪に器用に寝転んで、顔を麦藁帽子で陽射しから守りながらプカプカと海面に漂っている銀さんと、意外にも軽快にバシャバシャ泳いでいる新八君を見つめている。

そんな神楽ちゃんと長谷川さんの様子に苦笑しながらも、その場に荷物を適当に置く。
長谷川さんはそれにくるりと振り返ってきて、やっと私の存在に気付いたらしい。


ちゃんも大変だな。あんな野郎に振り回されて着替えてきたのかい?」
「あはははは……まあ、そんなところです」
「その下、水着なの?」
「え? はい」


荷物を置いて立ち上がり、神楽ちゃんの隣に並ぶ私に、長谷川さんは言う。
すると、そんな長谷川さんを横目にジロリと睨み付け、神楽ちゃんが私に言ってきた。


、気を付けるアル。オッサンだけど奥さんいないから欲求不満ネ、マダオ」
「いや、奥さんいるから。別居してるだけだからね。……確かにちゃんみたいな可愛い子の水着姿なら見てみたいけど、決してそういうやましい気持ちで見てないからオジサン。むしろ愛娘を見る父親のような気持ちで―――」
「早く海に避難した方がいいアル」
「人の話聞いてる!?」


しかも『海に避難』って何だよ、海よりおじさんの方が危険てか!

そう叫ぶ長谷川さんには申し訳なく思いながらも、神楽ちゃんに言われた私は2人からゆっくりと離れて、波打ち際へと歩みを進めた。(決して長谷川さんから避難したわけではない)

パーカーはきっちりと前のファスナーを閉めきり、着たままだ。
何故かというと、膝より上を海に浸けるつもりが、私には微塵もないからである。


「……うわっ」


ザザァ、と穏やかな動きで、私の足首辺りまでを濡らしていく海水。
その感触と冷たさに一瞬声を上げ、私はそれ以上進むことが出来ずに足を止めた。

もうお察しの方もいらっしゃるかとは思うが、私が海へ行くことを渋った理由が、今ので分かって頂けただろうか。(誰に話してるんだ私は)


「……? ー? 泳がないアルかー?」


足を浸けただけで動きを止めている私を不審に思ったのか、少し後ろの方から神楽ちゃんの声が聞こえてくる。
しかし、ぶっちゃけ今の私にその声に対して「入るよー」と返す勇気は、皆無だ。




何故ならば、私が―――カナヅチだからである。(今更言うな)




ここだけの話、波のないプールならば25m程度泳ぐことは出来るのだが、波で押される海は正直……怖い、のだ。
その為、実は過去に海へ行ったのは1度だけという情けない記録まである始末。

他の陸での運動は、父に武術で鍛えられている分何とかなるのだが、水の中では全くの音痴なのだ。

神楽ちゃんと長谷川さんの不思議そうな声に、ぎこちなく振り返って笑ってみせる。
きっと顔が引き攣っていたのだろう。
2人の顔が「まさかアンタ……」という疑念に歪んだ気がしたが、私は余計な心配をかけまいと、その場にしゃがみ込んで波で遊ぶ素振りを見せた。


(お、大きい波とか来ないよね? 大丈夫だよねコレ?)


内心はパニック状態だったが。
私の心配や不安を余所に、波は穏やかだ。

私は恐る恐るその場で膝を付き、水に手を突っ込む。
中途半端な浸かり方で陽の光が肌にヒリヒリと刺さるが、水の冷たさがとても心地良かった。
この程度の水遊びなら、楽しい。

1人波打ち際でパーカーを濡らさないようにパシャパシャと遊んでいると、不意に視界が陰って、私は何となくしゃがみ込んだまま顔を上げる。
その時―――。




バシャアァ!




「ぷおっ……!?」


突然目の前から襲ってきた水に驚いて、可笑しな声を上げながら尻餅をついてしまった。
明らかに波ではないその水飛沫のせいで、気を付けていたのに頭から全て水浸しになってしまった私は、頭の上から聞こえるくぐもった笑い声にムスッとして抗議する。


「い、いきなり何すんの!」
「くくくッ……! わ、悪ィ悪ィ。何か縮こまってやがるからつい水ぶっかけたくなっちまって」
「銀さん…」


日の光を遮るように目の前に立っていたのは、先程まで乗っかっていた浮き輪を片手にニヤニヤと笑いながら私を見降ろしている銀髪お兄さん。
何がそんなに愉快なのか、「ぷおって言ったよ、ぷおって。かーわいー」とか言いながら、尻餅をついたままの私の頭をグリグリと撫でる。

……というか、そこ突っ込まないで!
自分でもすごく恥ずかしいんだから!


「そんなとこで水遊びしてねーで、身体ごと入っちまえばいいのに」
「……い、色々とこっちにも都合があるんだよ」
「都合って何だよ。折角の水着姿楽しみにしてたのによォ。『銀さんお待たせェ☆(誇張表現)』って言いながら笑顔で浜辺をビキニ姿で走ってくるを想像してたんですよ、銀さんは。なのにそのサイズの合わねェブッカブカのパーカーは何だァァァ!!」


神楽ちゃんの言ったとおりだった(何だこの男は)。

私の着ているパーカーのフードをむんずと掴んでバタバタと振り回しながら、何故か激しく怒鳴り散らす銀さんに、最早水をかけてきたことなど忘れて溜め息を零す。
私としてはすごく楽な格好で助かっているのだが、銀さんは不満げに口を尖らせた後、私の腕を掴んで軽々と私を立ち上がらせる。


「……まあ、その生足は合格点だけどな」
「いや、そんな褒められ方されても嬉しくないから。というか、パーカーに対して怒ってるのか喜んでるのか分からないよ」
「違う意味で喜んでる」


どういう意味だそれは。

思わずそう口に出しそうだったが、限がないのでやめておいた私は、改めて銀さんと向かい合った。

―――そう言えば、今は銀さんも水着姿なわけで。

先程まで摩訶不思議なシャツの下に隠れていた上半身が、私の丁度目の前に曝されてしまって、唐突に自覚してしまったそれから、目のやり場に困ってそれとなく顔を背けた。


(自覚したら急に恥ずかしくなってきた……っ)


家族ならともかく、男の人の、しかも他人のこんな姿なんて至近距離で見たことがないから、どう反応していいのやら。
私はどうにかして銀さんを視界に入れないように努めた。


「とにかく、もったいねェから泳げよ。そうそう来れねェぞ、海なんて」
「い、いいよ私は。銀さん達だけ楽しんできなって。私はここで遊ぶだけで充分だし…」
「つれねーなァ。大丈夫だって―――が泳げなくても、銀さんが一緒にいてやっから」
「…………へ」


頑なに海へ入ることを拒否する私を無視して、銀さんはサラリとそう言ってのけて。
思わず、固まってしまう私。


「な、んでそれを……」
「そんだけ嫌がってりゃ誰だって分かんだろ」
「……ですよねー」
「というわけでー。優しい優しい銀さんが、海が怖くてしょうがないちゃんを先導してあげましょー」


と言っても、俺も大して泳げねーんだけど。

やっとのことで言葉を発した私に対し、いつものように飄々且つ自己中心的に結論を出すと、強引に沖の方へ向かって私の腕を引く銀さん。
私は思わず身を固くして慌てて踏ん張るが、砂浜が柔らかいせいか銀さんの力が凄いせいか、ズルズルと沖へ引っ張られてしまう。


「ちょっ……銀さん! 待って!」
「待ちませーん」
「お願い、待ってって! 私ホントに泳げないよ!?」


この際、カナヅチだと知られたくないという私のちんけな自尊心は捨て去って必死に銀さんを制止するが、銀さんはいつも以上にニタニタしたまま私を遠慮なく引きずっていく。

……何かアンタだけ愉しそうだなコノヤロウ!


「うぅー……み、水が……っ」


最早抵抗も無駄になってきた。

どんどん沖へと進む銀さんに引っ張られ、あっという間に身体が海水に浸かっていく。
パーカーはまだ着たままなので水を吸ってしまって重たいし、動きづらくなってきた。


「んなに怖ェ?」
「怖い!」
「……しょーがねーなァ……ほれ」


ビクビクしながら波に流されまいと身体に力を入れている私を振り返って、銀さんが訊ねる。
それに冷静さを失った私が間髪入れず答えると、銀さんは1つ軽い溜息をついた後、上からすっぽりと浮き輪を落としてきた。

大きめの浮き輪の輪の中に入り、おずおずとそれに腕をかけると、思いの外身体が安定したので、私は少し安心する。
もう胸の辺りまで海面は迫ってきていたが、浮き輪がある分幾らかマシだ。


「よし、この辺にすっか。……足つくか?」
「む、無理。大分前の時点から、無理」
「マジ? 俺はまだつくっちゃつくんだけど……、チビだもんな」
「チビじゃないよ! 銀さんとかが身長高いんだよ」


「そうか?」と、何となしに首を傾げる銀さん。
バランスよく立っているところを見ると、本当に足がまだついているようだ。

他愛もない話をする中でも、私は必死に浮き輪にしがみ付いていた。
そして、銀さんはそれを面白そうに見てはニヤついている。


にも出来ねェことあんだなァ。何でもそつなくこなすイメージだったし、なんか新鮮だな」
「あ、当たり前だよ。私、そんなに完璧じゃないよ。……むしろ欠点だらけだもん」


ここよりもう少し沖の方では、新八君が凄い勢いで右往左往泳ぎ回っている。
浜辺の方では神楽ちゃんと長谷川さんが並んで立っていて、こちらに手を振っているのが見えた。


(……なんか……意外と平気、かもしれない)


冷静になってそう思ったのと浮き輪をしっかりと銀さんが支えてくれているおかげか、幾分気持ちが落ち着いた私は、身体から余計な力を抜いて浮き輪に身を任せてみた。
プカプカと身体が浮かんで、何だかくすぐったいような感覚。


「……気持ちいいねー」
「そーだなァ……」


浮遊感が何とも言えず心地良く、だらーっとした声が出た。
銀さんもゆったりとした口調で返してくる。


「―――?」


このまま暫く浮かんでいてもいいかなー、なんて思っていると、不意に、銀さんが浮き輪を支えていない方の手をこちらへ伸ばしてきた。
何をするつもりなのかとその手の行く先をじっと見つめていたら、その手の先は私が着ているパーカーのファスナーを徐に掴んでくる。


「……何しようとしてるの、銀さん」
「いやァ、パーカー重いだろうから銀さんが脱がしてやろうかと思って」


銀さんの企みが読めた私は慌ててその手を止めようとするが、何分浮き輪に掴まっているのもやっとな状態の為、手が出せない。
それを見越しているのか、銀さんはニヤリと笑った後、妙に真剣な顔付きでパーカーのファスナーを下げていく。


「ちょっ、銀さんその顔怖い。手付きが妙にいやらしいし」
「いやらしくありませんー。そんないかがわしいことなんて考えてませんー。銀さんは純粋にの水着が見たいだけですー」
「本音はそっちか」


せめてもの抵抗とばかりに水中で銀さんを蹴ってみるが、水圧のせいでうまく力が入らず攻撃力は皆無のようだ。

そうこうしている間に銀さんの手は下がっていって、器用にファスナーを下ろしていく。
―――と、私の胸の下辺りまでファスナーが降りたところで、銀さんの手の動きが突然止まった。


「……」
「……? な、何?」


波にユラユラと揺られる中、ジーッとやや下に目線を向けたまま動かない銀さん。
暫くそのまま声を発するのを待っていると、銀さんは胸の下辺りまで下ろしたファスナーから手を離して、ボソリと小さく零す。




、お前……―――着痩せするタイプなのな」




…………さ、最低だこの人!!
あれだけ引っ張っておきながら、最低な事平気な顔して口走ったよこの人!

銀さんが零したその一言に、カアッと熱が顔に集まってくる。
そんな私をチラリと見て、銀さんはまたニヤリと笑った。


「か、神楽ちゃんにも言われたけど……どこ見てんのかと思ったら胸ですか!」
「しかたねェだろ? ファスナー下ろしてく過程で見えちまうんだから」
「『見ちまった』の間違いでしょ」
「最近のガキは発育がいいとは聞いてたが……流石の銀さんもビックリだよ」
「こっちの方がビックリだよ。銀さんの度が過ぎるセクハラに」


もう嫌だ。
本当にもう……だから水着なんて、しかもビキニなんて嫌だったんだ。

そう嘆く私を余所に、銀さんはジーッと私を見て「可愛いなオイ」とか意味の分からない事を言っているが、誤魔化されないぞ、私は。
心底恥ずかしくなってしまった私は、早々にその場から去ろうと、水中で足を動かして身体の向きを変えた。

海を怖がっていたことすら忘れて、恥ばかりが頭に浮かんできた私は足をバタつかせて浜辺を目指す。
何だか、プカプカ浮かんでいたせいで浜が先程より遠い気がする。


「待て待て待て!!」


だが、私が動き出すよりも先に、銀さんが後ろからがっちりと浮き輪を押さえつけてしまって、全く前へ進まなくなってしまった。
思わず後ろを振り返って銀さんへ非難の目を向けると、銀さんはどこかバツが悪そうに苦笑して、お詫びなのか何なのか、自分が頭に乗せていた麦わら帽子を私に被せてくる。


「悪かったって。いつもと違うから、ちょっと……からかってみただけだ」
「……もう言わないでね」
「ああ、何も言わねーよ。心に留めとく」


それもどうかと思うが。(この際どうでもいいか)


「もー……・ただでさえ慣れない格好で、しかも銀さんがいて恥ずかしいのに……」
「……は?」


ポソリと独り言のつもりで文句を零したのだが、銀さんにもしっかり聞こえてしまったらしい。
何故か、銀さんはキョトンと目を丸くしたまま固まっていた。
そして、何か思い立ったのか、先程とはまた違った真剣な表情で私の顔を覗き込んできたかと思うと、口を開く。


「お前、それって―――」


そう銀さんが言いかけた時だった。




「オイぃぃぃ、みんな逃げろォォ!!」




浜辺の方から、切羽詰まったような必死の声で叫ぶ長谷川さん。
それに思わず銀さんと2人で振り返ると、新八君も近くまで泳いできて動きを止めた。


「ダブルパンチだ!! 2つの恐怖が今まさに!!」

「?」
「? 何だァ?」
「ダブルパンツ?」


パンツ忘れてきたんですかね。

何とも緊張感なくそう言ったのは、新八君。
しかし、浜辺で叫ぶ長谷川さんの顔は歪んでいて、その傍らでは何故か、神楽ちゃんがどこから持ってきたのか巨大な岩の塊を頭の上で軽く掲げて立っていた。


「後ろォォ!! 志村後ろォォォ!!」

「何を?」


何だかどこかで聞いた覚えのある台詞を叫びながら、長谷川さんがある方向を指差した。
銀さんが呆れている中、不意に聞こえた長谷川さんとは違う叫び声に、私は新八君とほぼ同時に後ろへ振り返る。

突然、巨大な影に覆われる頭上。
視線の先には、すっかり存在を忘れていた海の家経営者のおじさんと―――。




「……な、に……ッ、アレ……!」




岩のようにゴツゴツとした瘤を持ち、ギョロリと大きな眼を動かし、大きく裂けた口におじさんを括った木を器用に銜えて宙へと跳ね上がり、舞う―――巨大な、怪物。




「ぎゃああああ!!」


明らかに異種なその怪物が豪快に海へ飛び込んでいった途端に、大きく海が揺れた。
必死に浮き輪にしがみ付きながらも先程目にしたものが衝撃的すぎて動けない中、新八君の悲鳴が耳に届く。


「出たァ! マジで出た! マジで出たよオイ! ちょっ、何してんだ! 逃げんぞ!」
「え? あ、うわっ!」
「うわァァァ!!」


先程までの悠々とした時間はどこへやら。
一瞬にして緊迫の状況へと変わってしまった海の中、銀さんは私が浮き輪に入っているにも拘らず自分まで中に割り込んできて、私ごとそのまま浜辺へ向かって泳ぎ始めた。

……かえって泳ぎづらいんじゃないだろうか、この状態は。

私の想像通り、浮き輪+人1人を抱えた状態では前に進まないらしく、慌てふためく銀さん。
私も慌てるべきなのだろうが、ここまで銀さんが慌てているのを見るとかえって冷静になってきてしまう。(空気読め、私の脳)

そんなことを考えている間にも、銀さんと新八君はパニックになって。
銀さんに至っては、スイスイ泳いでいる新八君が気に入らずに駄目出しする始末。

とりあえず、銀さんに合わせて私も必死に足をバタつかせるのだが、やはり浮き輪が邪魔をしてうまく前に進まない。


「てめーらァァァ!!」


これはまずい。

呑気な頭でそう感じていると、とうとう怪物がこちらへ向かって迫ってきた。
そんな怪物の口元には―――あのおじさん。


「さっきはよくもやってくれたな! 海の男の恐ろしさを思い知らせてやる!!」

「うおおおお来たァァ!! なんか合体してるぞ!!」
(あのおじさん、意外と余裕そうだな)


今にも飲み込まれておかしくない状況にいるはずのおじさんは、そう叫びながら怪獣と共にすごい勢いで突進してくる。


「銀ちゃん、、新八!!」


そんな神楽ちゃんの声も聞こえてきたが、今は目の前に迫っている怪物に目を奪われてしまっていた。
目と鼻の先にまで迫る怪物に、「もう駄目か」と私が諦めかけていた時。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


悲痛な叫び声と共に飛んできたのは、長谷川さんを乗せた、先程神楽ちゃんが掲げていた岩。
綺麗に放物線を描きながら、その巨大な岩は怪物―――ではなく、何故か私達の頭上へ向かって落ちてきた。


「あれ?」
「オイ、これ……」
「……う、そ……」


気付いた時には、もう遅くて。
岩が落下してくる直前、銀さんの腕に抱え込まれたのを最後に、私の意識はそこで途絶えた。






よくよく聞いてみると、どうやらあの怪物が私達の目的の『えいりあん』だったようだ。

神楽ちゃんの絶妙な(ある意味最悪な)コントロールで投げられた岩の下敷きになりかけた、私と銀さんと新八君の3人は、水中で気を失ったものの3人とも無事救出されることとなった。


あの、怖がって逃げていた怪物―――退治する予定だった、えいりあんによって。


見た目とは裏腹にとても心の優しいえいりあんだったらしく、沈みかけていた私達を助けてくれたのだという。

長谷川さんや銀さんの話では、あのおじさんはそのえいりあんのおかげで大繁盛しているらしい。
万事屋のリビングに無造作に置かれた新聞の一面を見て、私は何だかおかしくて笑った。


「『大人気!! 怪獣と遊ぶ海水浴場!?』だって。皆と遊びたかっただけなのかな?」
「オメーまで長谷川さんみてーなこと言ってんじゃねェよ。……もう2度とあの海水浴場は行かねェ」
「よく言うアル。何だかんだ満喫してた上に、の水着姿見てデレデレしてたくせに」
「うっせーんだよ神楽てめェ!! 銀さんも健全な男の子なの!」
「銀さんそれ、言い訳になってませんよ」


今までに味わったことがないスリリングな海水浴だったけど、これくらい賑やかならまた行ってもいいかな、なんて考える私は、都合のいい性格なのかもしれない。


ちゃん、銀さんが今度はプールに行こうって」
「え、何で?」
「……今度こそ、ちゃんの水着姿をじっくり拝むんだってさ」
「……」


やっぱり、水着着るのは嫌だ。








寄り添って、

波に揺られて、

浮かぶ。


(まあ、たまにはいっか)(本当、たまになら)









アトガキ。


*海水浴後半戦。いつもとは違う、ヒロインと銀さんと。

*ヒロインの意外な苦手を発見し、ニヤニヤした揚句服を脱がしにかかるというセクハラっぷりを発揮する銀さんが書きたかったんです、ごめんなさい。
 前回よりは甘い感じにできたかなーなんて思いながらも、まだまだな銀さんとヒロイン。いちゃいちゃしてるつもりは、ヒロインには皆無です。
 ちなみに、恥ずかしがっているのも別に銀さんだからとかではなく、男に免疫ないからです。……多分、今のところは。

 どーでもいい情報ですが、管理人は泳げます。海ではそこまで泳げませんが……波がなければお手の物です。だから、ヒロインのカナヅチは管理人の想像(妄想)。

 ではでは、次回は久々真選組出勤です!




*2010年11月2日 加筆修正・再UP。