俺と、獣だけの世界だったここに。
そいつは、易々と入り込んで来やがった。
「……高杉、さ」
「黙れ」
ぐっ、と。
そいつの喉元に押し付ける刃。
冷たく危険なそれとは裏腹に、の真っ直ぐで純朴な瞳は揺るがない。
―――壊したく、なる。
鋭く自分を見下ろす俺に、微かに異変を感じているのか、は不可思議そうにもう一度俺を呼ぶ。
「た、かす、ぎ……さん……? 痛い、んですけ、ど」
喉が、と。
こんな状況でも苦笑してみせるに、少なからず腹が立つ。
こいつは―――解かってやがるんだ。
「ふざけんなよ、てめェ…」
「い、や……別にふざけてはいませ―――」
「この状況で」
こいつは、どうしようもねェくれー、見透かしてやがるんだ。
「この状況で……どうして笑っていられる?」
てめェの命が、今。
目の前の、この俺に、支配されているというのに。
この手を軽く捻れば、お前の首はいとも容易く斬り落とせるというのに。
表通りに続く、路地裏。
の後ろには、きっと銀時の馬鹿と食うつもりなのだろう夕食の材料が詰まったビニール袋が、無造作に転がっていた。
俺は何となしに、それをぼんやりと見つめる。
「―――……斬るん、ですか?」
「!」
不意に、そいつは哀しそうに笑った。
「私は別に、構わないです……けど」
どこか自嘲的な、その笑み。
「私1人が死んでも、この世は変わらない、し。……でも」
こいつは、解かってやがるんだ。
俺が、自分を殺す気など、本当はないことを。
「貴方の目にしてる“世界”は―――私のせいで、変わってしまうのに」
こいつは常に、世界を二分していた。
「……ハッ、」
ただの、こいつ個人の綺麗事だ。
いつから俺の世界は、美を求め始めた?
高杉さん顔に力入り過ぎ、と笑うそいつに気が抜けて、刀が手から滑り落ちた。
荒れ果てた、この世界に。
(らしくもなく、それが美しいと思った)
アトガキ。