PROLOGUE
忘れられない、一瞬が在る。
『―――…ぃ、おい!大丈夫か、嬢ちゃん!』
『……ッん……』
瞼を開いた瞬間の、景色。
見知らぬ男の人の、安堵したような表情。
どちらも、今までも忘れられない。
『……だ、れ……?』
薄らいでいた意識が段々とはっきりしてきて、一番初めに感じた寒気や訳の分からない焦燥感も、忘れられない
そして―――頭の中の、空虚も。
『何でも屋なんてのをやってる、しがないオニイサンだよ。……もう大丈夫だ―――心配ない』
その瞬間、何故か、生きていることに対して涙が止まらなかった。
目を閉じ、思い出す度に、後悔に打ちのめされる1日が在る。
『私は反対だよ、師匠……何で海軍なんかに…。素直に従うことなんてない!』
『仕方ないだろ? 能力がバレたんだ。……―――隠したくても、隠しきれなかったな』
あの時、頑なに止めていれば。
あの時、子供心に駄々をこね続けていれば。
あの、ニカッと輝く笑顔が、絶えることなどなかったのに。
『……嘘だろ?何で……何でだよッ…!?』
『嫌だよ、そんなの……嫌だァ!!』
自分の無力さを思い知らされた、1日が在る。
―――『俺がいなくてもサボるなよ、』
この言葉が、最期になることなど、なかったのに。
それは―――。
広すぎる世界に。
世界を知らなすぎた私に降り注いだ、悲哀の雨。
***************
天候、晴れ。
風向き、南。
今日も、この島は平和です、師匠。
「―――また、今日も仕事してくるね」
果てしなく続く青い海が見渡せる、海辺に近い森の中に隠れる丘の上―――。
私は、全てを教わってきた師匠の、真新しい花が飾られた墓の前でゆっくりと呟いた。
あれから5年近く経つけれど。
この島は何の変わりもなく、日々を過ごしています。
変わったことと言えば、最近やたらと海軍が私達を追いまわすことだけ。
「ー! ー!!」
「! ……ヴァン、ターナ」
「あ、やっぱりここにいたんだね、姉ちゃん」
ほら。
血の繋がらない手のかかる弟達も、この通り。
「ったく、1日何回ここにくれば気が済むんだよ? 飯の時間だから、買出し行こうぜ!」
「あ、そっか。忘れてたよ」
「あはは、姉ちゃんらしいや」
貴方の守ってきた島も、私達も、変わりありません。
毎日平和に、のどかに、気ままに。
今日もまた―――1日が始まろうとしています、師匠。
貴方が愛した島。
貴方と愛した時間。
(今度は私が、護るよ)
*2009/11/07 加筆修正・再UP。
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